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キリィ・エイデン

残虐あります。



キリィ・エイデンは文官として王城の一角で働いていた。


最近、娘達が変わった。良い方向に。

姉のリリアは婚約者と変わらず仲が良く、アリアは今までの放蕩振りがウソのように勉学に励み、使用人達に優しくなり、自分に自信を持つようになった。そんなアリアの事を距離を置いていた妻が気にかけるようになったのはいつの事だろう。

アリア本人は気付いていないと思う。妻は時々通り過ぎるアリアに手を伸ばし、何か言いたげに口籠る。


「今までのことがあるから…。 私はいつも後から後悔するのよね」と、所帯なさげに妻は言う。



変われる事は出来る、君が私を変えてくれたように。


妻にキリィは何度も伝えた。





王城の廊下を歩いていると、第二王子並び側近候補の少年達が前を歩いてきた。

キリィや他の職員は隅に移動し、頭を下げる。

少年とは言え、立場は違う。地位が全然ちがうのだ。偉いのだ。

子供だから、と馬鹿にする貴族もいるが。


キリィは前者だった。


特に、クレイン公爵家子息が 怖い のだ。



「エイデン卿」


通り過ぎたと思った。

呼ばれ顔を上げると、怖いと感じる対象、基、最愛の娘の婚約者が微笑んでいた。

無機質な人形の様に。


「本日、昼から公爵家で食事しませんか」


命令だった。






周りも聞いていたのか、早急に仕事を切り上げ子息と合流する。


馬車が迎えにきていて、中に乗ると二人の同じ髪色の少年と、身なりの良い貴族がいた。


「エイデン卿、彼は私の乳兄弟のライアン・ミハエルとその父ナルシス・ミハエル子爵です。ラビリアル商会の会長なんですよ。ライアンは近衛隊に所属しておりまして、歳が近いので第二王子の護衛として来年より学園に通う予定です」


簡単に挨拶を交わし、ラビリアル商会が最近リリアとアリアが世話になっている事を思い出す。商会自体はとても有名で、妻や使用人など貴族、平民とわず人気を誇っている。



「子爵家は領地を持っていません。なので人材を公爵家から多く輩出しております。ラビリアル商会のパトロンはクレイン公爵家なんですよ」

ナルシスと呼ばれた男は説明した。



「クレイン公爵家。正しくはルキアス様に、ですが」


末恐ろしい事を言い出した。



「クレイン公爵家は国ができた時からある古参の家です。エイデン卿、この意味わかりますか?」


無機質な人形ーーールキアスはキリィを見据える。


彼等には何もしていないはずなのに、自分が過去行った事を見透かされている。そんな恐怖。



「特に表舞台に立って王家と対立する事もなく、筆頭公爵を名乗るわけでもなく、存在している。この意味を考えてくださいね」


年下の少年は静かに微笑んだ。






公爵家に到着し、客間に案内される。


テーブルに椅子は5席。


誰か来るのか?不思議そうに椅子を眺め、席に座って行く。

しばらくすると、メイドが連れてきたのは。



祖父の別邸を任せている執事だった。



案内されるがまま昔から仕える執事が、キリィの横に座る。


ルキアスが再度自己紹介を行い、ライアンにケージを持ってくる様に指示をする。


食事を楽しむ前の余興という事で一匹のドブネズミを連れてきた。


少年は手にした粉末を餌にふりかけ、ハンカチで手を拭く。




「さぁ、食事を楽しみましょうか」


静かな食事会が始まり、20分経過しただろうか。


コーヒーを嗜んでいるとルキアスはキリィと執事に声をかけた。



「此度は第二王子殿下の婚約者内定はサラマンド候爵令嬢と決まりました」


今更。その話題は国中が知っている。


「サラマンド候爵家は一部社交界で裏オークションに通っている、と言う情報もありなかなかの曲者なんですよ」


「そ、そうですか…」


それが我が家にどう関わりがあるのか。



「ただの世間話です」









「僕は愛しい婚約者の為に少しでも不安を減らしたいと思いましてね。少し調べたんです」


キリィを見据え、ルキアスは口を開く。







「エイデン卿が祖父と呼んでいるあの男は、血の繋がりがないんですよ。そうですよね?執事さん?」






何を言っているのか理解できなかった。





キリィは答えを求める様に執事の顔を凝視する。


「さらに言えば、数年前に亡くなった祖母?でしたっけ…あの人も全くの他人ですよね」






「さようでございます」



執事は観念した様に声を絞り出した.








キリィの父がまだ幼い頃。

キリィ父の実父は2歳でこの世を去った。キリィ父の実母は嘆き悲しみ家の存続が危ぶまれた時に、実父の親戚と言うあの男が現れた。弱った実母に漬け込みそのまま上がり込んだ。そしてキリィ父が学園に通い始めた頃、実母が他界した。男はそのまま一人の女と籍を入れ、伯爵家の当主を名乗った。キリィ父は男の虐待を幼少から受けており逆らう事はしなかった。キリィと妹が生まれた時に男はキリィを自分の手駒の様に育てた。



「昔から仕える使用人どもは当時家族や恋人などを人質に取られ、逆らえませんでした…」


「ありがとうございます」


ルキアスは知っていたかの様に感謝を述べたが感情はこもっていない。







「30分経ちましたね」


場を壊す様に、ナルシスは言うとケージの中のネズミが突然もがき走り回り、息絶えた。



「心筋梗塞を起こす薬です」


微笑みながらルキアスは再度キリィを見た。


「私はガーデニングが趣味なんですよ。薬草を合わせると組み合わせ次第で毒になるんですよ。ナルシスもいろんな知識がありましてね」


「……」


「配合も覚えています。人間の少し高齢の男であればこのくらい」

用意していた小瓶をルキアスは手に持つ。



「可愛いリリアとの結婚を認めてもらいに一度、先代に挨拶に伺いたいのですが。あ、もちろん私は非力ですからね。何かあった場合に備えて近衛隊に所属しているライアンも同行をお願いしたいのですが…」


ウソをつけ、とキリィは動き始めた頭を動かす。


ルキアスが武術に優れており、大の大人相手でも勝ちをもぎ取っている。と同僚達が言っていた。騎士団長も近衛隊長も目をかけ、学術共に万能と。王族より優れている天才だとまことしやかに囁かれている。その上、薬学だと?暗殺も得意なのか?



紫の瞳と目を合わせ、額から汗が伝う。





過去、妹をいじめていたキリィ。

この少年は知らないはずなのに、この瞳を見たら酷く恐怖を感じる。




「2日以内に会わせてくださいね」



公爵家からのお願いです。



最後に一つ、と付け加え。



「執事さん、貴方の話にはエイデン卿に妹がいたそうですね。リリアのおばさんに私も会ってみたいのですが」


表情を崩さない執事の顔がこわばる。キリィも同様に。






「キリィ様の妹君は亡くなりましてーーー」



「そう、ですか」



その少年の顔を、キリィは見れなかった。



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