ある令嬢の独白
お兄様は騎士様だった。
太陽みたいなオレンジの色、茶の瞳をいつも細めて。いつも先を歩いてくれていた。
昔、お兄様がくれた赤い薔薇。花言葉なんかわからない人だ。くれた理由も「ただレリの瞳の色だから似合うと思った」から。
赤は私の色なんだ。
お兄様に言われてとても嬉しかった。
薔薇を持って
「俺はレベッカの騎士だからな!」
太陽の様に笑った。
私の、私だけの騎士様。
8歳の時、王城でお茶会が開催された。王子様とは縁があり、何回か顔合わせを一歳下の妹としている仲。今更、と思いながら身体の弱い妹を置いて登城した。
私の騎士様は金髪の少女を連れていた。
対立する様にクレイン公爵家子息と、赤い髪の少女がいた。
赤い髪の少女がお兄様に話しかけた、途端に食い入る様にお兄様は少女を見て頬を赤く染めた。
赤い、赤い。
気持ち悪い、嫌な感情が胸を締め付ける。
赤色は。私だけの特別な色なんだから。
お兄様は私だけを認めてくださったのではないの?
握りしめる拳が痛かった。
王妃と王子に挨拶を行い、クレイン公爵子息の婚約者だという少女の名前を聞いた。
リリア・エイデンと。
リリアを観察し、公爵子息から離れて後を追う。
自然に鉢合わせたように話しかけた。
公爵子息が現れた時に咄嗟に抱きついた。
お兄様と違う、華奢な身体。汗臭くない清潔感ある匂いがした。
さすがに怒らせてしまって使用人に連れられて控室に連れて行かれた。
帰る際、お兄様に呼び止められた。
やっと会えたお兄様。少し怒った口調で。
「お前もルキアスが良いんだな」
と憎々しげに言われた。
それからは淑女教育で家庭教師がつき、王家の次に高い位の公爵家と言うことで。
王子妃の候補、とお父様に告げられた。
王子妃の教育も始まった。
お兄様が学園に入り、夏季のお茶会。
側近候補が来ていると言うことでお兄様を探す。
お兄様は騎士団長の息子だもの、実力は折り紙付きですわ!
きっと、女性に囲まれてあたふたしているでしょうから、淑女教育で培ったスキルで助けてあげましょう!
と思ったのに。
お兄様はどこにもいなかった。
夏の終わり。
個人的な夜会を催し、騎士団長を招いた。
「息子が少し自信を無くしているんだ」
寂しそうにおじ様は呟いて。
次の日に会いに行った。
お兄様は応接間に来ると、あの日と同じ目をして。
「お前もあいつのこと好きなんだろ?なんで俺の方に来るんだよ、心の中で見下しているのか?」
蔑の瞳。
大好きな茶色の瞳が光を失っていた。
「私はお兄様をお慕いしています。だって、お兄様は私の騎士様…でしょう?」
自然と声を張り上げる。
「ウソだ!みんなあいつがいいんだ!お前も!父上も!」
そう言うと部屋を飛び出した。
伸ばした手が行き場を失い、1人寂しく帰路へ着く。
赤い花が目に入り。
先程掴みそこねた手で薔薇を掴む。
「痛い…」
薔薇の棘は痛かった。
赤い血が指から出てくる。
赤はレリの色。
昔そう言ったお兄様の、太陽みたいな笑顔。
私は、あなたが騎士でいて欲しいと望むのです。




