マーリ・エイデン(前編)
マーリ・エイデンは夫のキリィと共に教会へ来ていた。
夫婦の出先の多くがここである。
礼拝堂にて祈りを捧げる。
あの子の魂が安らかに過ごせています様に、と。
マーリがアミリアという少女に会ったのは幼少期の学園だった。
平民のマーリに手を差し伸べ、差別をしなかった。
少し落ち着きがないな、と思った。第一印象は。
東洋の島国の料理などと珍しい料理を作ったり、貴族だったら使用人がするんでは?という様なことを淡々とこなし毎日笑顔でアミリアは過ごしていった。
ミナリー子爵令嬢を加え、マーリとアミリア。
仲良し3人組と言われるようになるのはすぐであった。
卒業まで最後の一年。
平民のマーリはこのまま文官に上がれたら将来が約束される。そして、職場恋愛をして安定した生活を送るぞ。意気込みを掲げていた。
キリィが現れるまでは。
アミリアが世話になっている。
そう言ってアミリアの兄がマーリの元を訪れたのだ。
大好きなアミリアと同じ色味のキリィが。
キリィの事を好きになるのに時間は掛からなかった。
それから、キリィに嫌われたくない一心でアミリアに酷い事をした。ミナリーからも諭されたが、止まれなかった。
卒業パーティーの際、アミリアの処遇を助言したのはマーリだった。
アミリアと仲の良かった青年は過去伯爵家に出入りしていた知り合いだと彼女は言っていたから。
結婚出来なくともアミリアを支えてくれると信じていた。他力本願だった。
キリィがアミリアに辛く当たっていた理由を知ったのは結婚後だった。
祖父と紹介された先代。舐める様に上から下まで見られ、鳥肌がたった。それにキリィは気付いていないのか「お祖父様は自分をずっと可愛がってくれたんだ」と紹介してくれた。
結婚後半年。
会う度に見定められる様な視線を送られ、「世継ぎはまだ出来ないのか?」「夫婦仲はきちんとしているのか?」「男をキチンと産んでこそ伯爵家の夫人なのだから」とキリィのいない所でネチネチ。言われるようになった。
男を産む。
この男はキリィが男だったから可愛がっていただけなんだ。逆に女のことを道具か何かと思っている。
この男は狂っている。
マーリは踵を返し、祖父と呼ばれる男を見る。
「気の強い女はいいな、唆られる」
そんな事を言いながら男は舌を出した。
キリィが外泊した日だった。
マーリは侍女にしたアミリアにお茶を淹れてもらっていた。
アミリアはマーリに対して、パーティー以降もマナーをキチンと教えてくれている。学力に関してはマーリのほうが上だけど…
アミリアのお茶は落ち着く。
そう言うと、ありがとうございます。と他人行儀な対応をされた。
卒業以降、一回のみ訪れた。それ以降、庭師の青年が訪れることはなかった。忙しいのだろう、他家に呼ばれることが多くなり伯爵家の庭に雑草が目立つ様になった。
そんなことを考えていたらいつもは視線が合わないアミリアと瞳がかち合う。
のと同時に視界が変わった。
気付いた時、アミリアと違う侍女がいた。
昔から働いている高齢の侍女は顔を伏せながらマーリにゆっくり話す。
先代がマーリの寝室に夜這いにきたこと。
アミリアが身代わりになって襲われかけたこと。
アミリアがショックで、意識障害を起こしていること。
アミリアは昔の優しい彼女だった。




