アリアと熱中症
ぐるぐるぐる。頭も回る。
わたし自身が回されて、どこかへ飛んで行けたらいいのに。
「何事ですか?御令嬢方」
騒がしくなった令嬢の声をかき消す様に男の声がした。
「騎士様!この方が悪いんですのよ?いつも周りに殿方を侍らせて!王子にまで手を出そうとしておりまして…!」
甘い声がする。
あぁ、この男はきっと…
「その喋り方わざとらしいですよ。そもそも今の現場はどう見ても貴方に非があるように見えますが?」
「そっそんなっ…違います、違いますっ!」
「少し黙ることはできませんか?もう一度言います。この現状は第三者から言わせてみれば、貴方に責任が問われます。そして、私はここにきたばかりですが、彼女が遊び人だと言う噂は聞いた事ないですね。貴方の勘違いでは?」
メガネの奥の灰色の瞳に光が灯る。
「今回は王子殿下の手前不問に致しますが、次回同じことをしたらご家族に話がまわります。そのように考え下さいね」
そう言うと、彼の前から令嬢は去った。
「何をしてるんですか」
俯いてたアリアにライアンは問いかける。
「…今日で二回目。何してるんですか?って、口癖なんですか?」
「もっと言い返せば良かったではないですか?君は何故、黙っていたのですか?言い返せなければ逃げても良かったし、声を出して助けを呼んでも良かったのに!」
「頭がボーとしてました。なんか、どうでもいいかなって」
「君はっ!」
そう言いながら彼は制服のジャケットを脱ぎ、肩にかけてくれた。
だめだ、もう。
心の中の警音が鳴る。
「私、誰かに必要とされたいんです」
ぐるぐるぐ。
「本当は、ママに愛されたい…パパやリリアともっと仲良くしたい」
るぐるぐる。
「どうして、私は誰からも必要とされないの?良い子にしても見てくれない!悪い子になっても本当に叱って欲しい人は…ママは私を…」
「君は…」
目の前の彼がひどく歪んで見える。
私はきっと泣いてるんだ。
「……そのジャケットは預けておきます。まだ予備があるのでゆっくりでけっこうなんですが、せっかくなので洗濯をして返してもらいたいものでして。春には学園に編入手続きを行なっており入学します。絶対に返しにきてくださいね」
そう言うとライアンは人混みの中に紛れていった。
結局、私の名前を聞いてはくれなかった。
ぐるぐるぐる。
水色、灰色。
貴方の色。
頭がボーとするのは。
熱中症。




