記憶障害にされたらしい(大幅追加)
2話を抜かしていたのでくっつけています。
前世の記憶を思い出して真っ先にしたことは現状把握!
幸いな事に起きた時に誰もいなかったので辺りを見回す。
うん!
前世で流行っていた乙女ゲームの世界並みにクオリティの高い似非ヨーロッパ調な作り!
鏡付きドレッサーの前まで行き[私]は今世の私とご対面。
ストロベリー色の癖っ毛ある髪。
猫っ毛あるややつり目がちの翡翠色の瞳。
儚げとは遠いこの容姿…
間違いねぇ、悪役令嬢顔や!
試しにほっぺをつねる。痛い。
そしてこの容姿に見覚えがある。
「君と奏でる愛唄」
略して君唄とか君メロとか言われるスマホアプリゲーム。
の、悪役令嬢!リリア・エイデン!
攻略対象公爵子息の婚約者でありヒロインのアリアの双子の姉。
配信直後バイトの休憩時間や通学時間の電車の中でやっていた程度に健全な擬似恋愛ゲーム。
ヒロインのアリアは金髪青色のアリスみたいな見た目の女の子!
前向きで明るく!よくあるゲームですな。
タイトルに愛唄表記してる割には音楽とか楽器とか出てこないじゃん?!って心の中で突っ込みながら結構プレイしてた気がする。
王子やら宰相補佐やら騎士団長息子やら出てきて対象キャラ5人隠しキャラ1人をヒロインのアリアが落としていく。ガチャでドレスとかアクセサリーとか出てくるとかログインボーナスでガチャコインゲッツ!とかよくあるゲーム。
の、悪役令嬢。
いわゆる寝取り枠の公爵息子の婚約者。
逆を返せばお姉さまの婚約者を奪ったヒロイン。
婚約者を妹に取られて嫉妬に狂った悪役令嬢。
…悪役令嬢悪くなくね?!
多分寝取り枠とか言い方は我流だから公式的には違う言い方はあったと思う。
けどもな!
前世の私は突っ込まずにはいられなかった。
ヒロインよ、お前こそアバズレじゃああ!!!
と言う事でこの攻略対象は一回流しプレイしただけなので特に思い入れはない。
と思ったのさ!
目の前の悪役令嬢、私やん?!
リリアじゃん、っつーことはアバズ…妹がいるはず!
歩く恋愛上級者と身内ってことじゃん?!
年齢からしてまだ幼い。
まだ公爵子息とは婚約してないはず!
歩くアバ…妹、アリアの対応をしなければッ!
私ことリリアは鏡の前で「えいえいおー!」と片手を掲げた。
「お嬢様?」
メイド?らしき服着た女の人がドアからこんにちは。
メイド服からお姉さんは10代後半から20代前半の落ち着いた容姿の方。
名前?思い出せない。
「お目覚めですか、アミリアお嬢様!良かった」
にっこり微笑んで彼女はそう言った。
アミリア、と。
「アミリア?誰それ?!」
あっ、声可愛い。
自分で発した声に感動しつつ、私リリア(仮)はメイドさんを見た。
メイドさんは目を見開き、一呼吸置いて、物理的に私を置いて部屋から出ていった。
数分後。
先生と呼ばれたおじいちゃんとご対面。
名前を聞かれ、家族構成を聞かれ、当たり障りのない日常会話をした後に言われた言葉は
[記憶障害]だった。
はい、訂正!
私の名前はアミリア・エイデン 齢6歳。
父と双子の兄と父方祖父母と暮らしています。
母は私と兄を産んだ時に他界。母一筋だった父は後妻は貰わず子供たちに愛情を注いでいる。
爵位は伯爵。前伯爵だった祖父は後継の双子の兄を可愛がり実権はほぼ祖父が持っている状態。
祖母は祖父の言いなり、父は口出せず。
その状況の結果、兄は私より優位だと感じており虐める。父は庇うけど庇ってくれたら実父の祖父に怒られる悪循環。
使用人は陰でアミリアを庇うけど表立って祖父に逆らえないと言う。
部屋に最初に訪れたメイド、ナナから聞いた話。
6歳、かぁ…
前世の甥っ子と二つ違いということは、実兄の精神年齢はあのクソガキ並みの知力かぁ。
走っている物体があったら頭より先に足や手が出るパターンのやつだな、うん。
男の子供はママっ子が多いから母親が恋しんだろうなぁ。
アミリアを産んだ後に亡くなったから母親が亡くなった原因はアミリアだと信じて疑ってないな、コレ。
「ナナ、教えてくれてありがとう!」
にっこり、天使スマイルを見せる。
「いえいえ。お役に立てて良かったです」
ナナも笑顔で返してくれる。
今回の発熱は兄キリィから庭に呼び出され頭から水をかけられた事らしい。
因みにバケツは10個用意されてて土下座させられた上で10個全部かけられたらしい。
庭師のお孫さんらしき人が後から教えてくれた。
見ているだけでごめんなさいって年上のお兄さんに頭下げられたよ。
こちらこそそんな光景を見せてごめんなさいだよ、本当に。
私は「いつもの事なので気にしないでください〜。お見苦しいものをお見せしてこちらこそすみませんでした」と話した。
お兄さんは体勢を戻し頭を少し傾げていた。
ゲームの世界に沿っている。とは思う。
国名も一緒だし貴族の名前もそれとなく当てはまっている気がする。
でも。
アリアをはじめ攻略対象たちの名前すらないんだよなぁ、なんでだろう?
図書室で貴族図鑑を見ながら首を傾げる。
因みに同じ敷地内でも意地悪兄は勉強が嫌いなので図書室には訪れない。
加えて祖父の意向で女に知識はいらない!という古い常識で生きている人なので家庭教師を付けてもらってない。
食事も私だけ自室で、他の方々は家族団欒で過ごすのでマナーもクソもない。
純日本人らしく手づかみはしていないけど形式に則った食べ方はしていない。
代わりに庭に生えてた木を伐採していたので細かく指示して箸もどきを作ってもらって食べている。流石にスープはスプーンだけども。
そして早4年。
アミリア10歳の夏。
父伯爵が流行病にて他界した。
過労も含んで耐性が弱っていたと思う、主に胃の。
記憶が戻ってから(周りからは記憶障害で少し記憶なくしているとされている)父には助けられていた。
兄のアホな発言に振り回されて、アミリアの虐められを陰ながらケアして(ほんと陰から!)、実父の暴言に耐えながら貴族社会を生き抜いて誠実に真っ当な生き方をしていたと思う。
普通なら実父を領地に追い出して息子を諌めて娘を表立って助けるくらいはしてよ!と思うけどそれは高望みだと思う、世の中そんなに甘くない。そして我が家は領地がない!
現状維持をしながらさらに何かを変えようなんてあの父にできるわけがなかった。
最低限の年齢に合わせたドレスと食事を取らせてくれるだけでも嬉しかった。
父の葬儀の後、私の生活が一変したというのはいうまでもなかったけど…