一石二鳥
ルキアスは少し震えていた。ジョンの意識がそうさせているのか、酷く機嫌を伺う様に。
リリアは抱きしめて「大丈夫」落ち着かせるまで言い続けた。
落ち着いたのか、次第にジョンの過去を話し始めた。
自分は次男だったが、父が遠縁の後妻を娶ると歳が近い兄ができた。三男として暮らし始め、血の繋がらない遠縁の兄はジョンの名前を借り遊び呆けていた。今回の娘が兄の子供だろう、と。
「昔、ジョンは自分の目の色を兄と同じ若草色と思って生きてきたんだ。お嬢様がエメラルドみたいって言って、よくよく考えたらそうだな、って。…単純だよね」
ルキアスも壊物を扱う様にリリアの腰に手を回し、「ジョンは兄が嫌いだった。奪っていくから。さっきのアイツも兄と同じでリアの事、僕から奪っていくみたいで…」
実際奪われそうになった人はルキアスなのだが。
「ジョンの事思い出して、あの女を見て怖くなった。リアがいなくなりそうで、離れたくないのに引き裂かれそうで」
よほど前世の兄が怖かったのだろう。ルキアスはまた震え始め、リリアは強く抱きしめた。
「大丈夫だよ、私はキアの隣にいるから」
「ごめんね、リア」
なんで謝るのだろう。
落ち着かせる様に背中をさする。
「ジョンがアミリアに固執しててごめん。僕が君を選んでしまってごめん」
他の人を見ていたら、自分がひどく歪んで見える。
「もし、普通の恋人なら。しがらみに囚われず自分の気持だけを言えたのかなって」
ライアンやアリアを見て、マークやレベッカを見て。
他の人達は自分の気持ちに正直だった。
「ジョンの意識が君を求めているのかなって怖くなる時がある。リアには僕だけを見て欲しくて縛り付けてるのかなって。好きだよ、愛してるよ。でも、その気持ちは酷く歪んでるんだよ。リアを支配したい、君だけが欲しい。他の人達の様に純粋な気持ちでリアを求めてないんだよ」
どこかで感じていた気持ちの答えをルキアスが話してくれた。
リリア自体も考えていた。自分に向けられる歪んだ感情を。
どこで狂ったのかわからない、けれど。
「私はルキアスを愛しているわ。アミリアはジョンの事を」
だから。
「同じ身体同士だから一石二鳥じゃない?」
ジョンは私の中のアミリアを求めれば良い。私はルキアスが好きなのだから。目の前の彼だけが。
「重たい愛情も全部好きなの」
だから、怖がらないで。
「受け止めるから」
一緒に生きていくんでしょう?
「もっと、ルキアスを知りたいの」
リリアはルキアスの涙を拭い、そのまま唇を重ねた。
彼の涙の味がした。




