ジョン
ジョンはルーズーフ子爵家の次男だった。
長兄アペロと父、母と暮らしていた。
母が亡くなり、父は親族の未亡人を新しく夫人に迎え入れた。
ジョンは三男となった。
次男になった男はジョンから地位も、名前も奪った。
遊びの際にジョンの名前を名乗り、手柄は自分の名前を名乗る。悪評だけが知らない間に一人歩きしていた。
アペロが父に進言しても苦笑いをし、のらりくらりでかわされて。
学園に入る頃にはジョンの居場所はなかった。
親戚筋なので面影はあった。少し化ければ騙せたのだろう。
居場所がなくなり、彼は学園を去った。
たまたま。公園で見かけた木がとても綺麗だった。一本一本が同じ種類なのに違うものに見えて、羨ましくなった。
手入れをしていた老人に無理やり押しかけ弟子入りした。
名を捨て、家を出て。
近衛隊に入団していたアペロには黙っていた。
もちろん、あの男にも。
同じ髪色、若草色の瞳。
人のものを奪っていくあの男には。
「僕はね、お前みたいな奴が二番目に大嫌いなんだ」
ルキアスはリリアの手を離し、目の前の令嬢を見る。
手を離した時に、少し顔を顰め悲しそうにした大切な彼女。
こんなに嫌悪したのはこの世に生まれて初めてだ。
まさか、いるとは思わないだろう、あの男の娘が。
あの男と同じ様に人のものを平気で奪っていく。相手を追い詰める。親子そっくりだな。
令嬢、とは名ばかりの女、そうだ、女だ。
お前こそ卑しい、女。
泣きそうな顔しても、ダメだ。
アミリアの名前を呼んだことも、リリアの名前をバカにしたことも許せない。
許せない。