小説の話、では。
帰りのとある教室。
王子様が学園に入学してきて彼女は、はしゃいでいた。授業が終わると知り合いの令嬢と共に急いで教室を出、王子様のいるクラスへ移動する。
しがない男爵家の娘。母は未婚で彼女を授かり、生まれた。
少し夢見がちな母は酒場でとある男と知り合い、何度か夜を共にしたらしい。男は子爵家の子息だと言い、何度も甘い言葉で母を口説いた。
必ず、迎えに来るから。そう言い残し消えたらしい。
娘の母はその言葉を最後まで信じていた。
母は2年前に亡くなった。
娘も例に漏れず、夢見がちであった。
恋愛小説の身分差の恋物語を読み漁り、いつか王子様が迎えにきてくれると信じていた。
物語に必ず登場する悪役。読み更けていた恋愛小説の悪役は王子様の意地の悪い恋人が多かった。
主人公は王子様を助け、見守り、最後は悪役令嬢を懲らしめてハッピーエンド。それがセオリーだった。
王子様の教室へ着くと、娘の[王子様]がいた。
銀髪の髪を伸ばし、束ねて片方の肩に流し、宝石みたいな、アメジストの瞳をした娘の王子様。
ほぅ、と一息して王子様を見つめる。
物語だったら、ここで視線が合い、話は始まる。それが運命なのだ。
と、王子様が娘を一瞥し目を見開いた。
思いが通じたのか?
娘は喜びながら微笑んだ。
悪役に囚われた王子様。
私は主人公。
貴方は私の王子様。
緑がかった茶色の髪の娘は、若草色の瞳で口に弧を描いた。