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「ちょちょちょちょ! レオ殿! レオ殿!!」
王城敷地内。庭園が見える回廊を、ずんぐりむっくりとした初老の小男が叫びながら早足で駆けていた。
庭園の中心で剣を奮っていたレオは声に気付き、鞘に剣を納めた。
「ああ! ラルム殿! ごきげんよう! そんなに慌てて、どうなさいましたか?」
白い歯を輝かせ、レオは爽やかな笑顔でラルムに挨拶をする。
「誰の所為で慌ててると思ってるの! 駄目ですって! こんな所で勝手に剣を抜いては!」
「余りに天気が良かったので、緑が薫るこの場所で剣を奮ったら、さぞ気持ちいいだろうなと思ってしまった次第です」
ラルムの注意は、まさに暖簾に腕押し。
言葉が通じるのに、常識が通用しない相手と言うのは厄介なもので、ラルムは隠す事なく大きな溜め息を吐いた。
「それにしてもラルム殿。少し痩せたように見えますが、どこか体調でも悪いのですか?」
話が通じないのは今に始まった事ではない。取り敢えず、自分の視界に入ったレオが危険な行動を辞めてくれたので、ラルムは差し出された話題に乗ることにした。
「体調は問題ありませんよ。ただ、領地にある屋敷の者からの手紙に、少し不穏な事が書かれておりましてね。向こうに娘がいるものですから、心労で少し寝不足が続いたせいかも知れません」
本来ラルムは自身の預かる領地を経営すべき人間であったが、近隣領主同士のトラブルにより、巻き込まれる形で王都に来る羽目になった。未だ帰れる見込みはない。
それに加え、先日流行り病で妻と娘のうち一人を亡くしたものだから、領地へ残った娘への心配も一入であった。
レオがいくら話の通じない相手と言えども、心の内の発散どころくらいにはなる。ただ言いたかっただけ。聞いて欲しかっただけ。
「でしたら、僕が様子を見てきます」
「…………え?」
ラルムは咄嗟にそれしか言えなかった。
普通は他人の領地に、領主の代わりに行ってきますなどとは言わないのだ。そんな返事が来るとは思わない。
「安心してください。僕は身体を使う事の方が得意ですが、これでも顔は広いのです。頭を使うのが得意な友人も連れて行きましょう」
本来であれば、断るべきだった。
しかし、心労からくる寝不足でラルムの頭は回らない。それに加えて、このレオという男、実質団員一名第十三騎士団長の役職を持ったおかしな人物であったが、彼の実父は公爵位を持つ。それだけ力を持った家に生まれれば、顔が広いという言葉に嘘は無かった。
「……じゃあ、お願いしようかなあ」
「お任せください! ご息女の安全も、屋敷の不安も解決してみせましょう!」
爽やかさ百パーセントの笑顔を浮かべて、レオは甲冑を着た胸を叩いた。
「さあ! ケルピー! 旅へ行こう!」
レオが跨がるのは、身体の立派な白い牡馬。
「これは正義を行う旅だ! 君が共にふさわしい!」
言葉が分かるかのように、馬が嘶く。
「まずは、向こうの方角だ!」
追い風と共に、風に乗る。
「そこにクロがいる気がするんだ!」
彼らの過ぎ去った道を、真っ青な顔をした厩の世話係と、甲冑を着た衛兵達が必死になって後に続く。
「さあ、物語の始まりだ!」
高らかに声を上げたレオは、
今王城の正門を潜り抜けた――――




