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最強魔術師は無職です  作者: 十字たぬき
奇妙な双子
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 王城敷地内の空中庭園にて。


 歳若い令嬢達の、鈴の鳴るような囁き声が聞こえる昼下がり。


 お茶と、お菓子と、綺麗なドレス。


 腕の良い庭師が手を入れたその場所で、麗かな少女達がお茶をする光景は、一枚絵にしたらさぞかし高値がつく事だろう。


 だがしかし、


 彼女達の笑顔の裏で行われているのは目に見えるままの綺麗なものじゃない。


――――――マウントの取り合い。


 それぞれが、領主という経営職・管理職の父を持つゆえに教育を受ける。

 勉強や訓練にかけた時間は自信となり、身についた教養は責任感へと繋がる。


 要は、頑張ってきた自負があるのだ。


 他の令嬢には負けたくない。


 だが、正面から乏すなど無様な真似をすれば終わり。自身の持つ教養を駆使して相手を負かす。そして優位に立つ。


 母から娘へ引き継がれるからこそ、その真実を知らないものはこの場にはいない。


 辺境に程近い小さくも穏やかな土地からやってきた、このサロンに初参戦のソフィーだってそれは変わらなかった。


 ソフィーの父の持つ爵位は男爵のみ。それに比べて同じテーブルを囲む少女達の父親の多くは伯爵か、または複数の爵位を持っていた。


 爵位とは管理を任された土地のこと。土地の豊かさや広さでランク付けされる。勿論それだけではないが、ソフィーはその時点では負けていた。


 だからと言って、それが自身の評価とイコールではない。加点の度合いが少し違うだけ、そう思う事でソフィーは心を強く持った。


 それよりも、ソフィーを今悩ませているのは周りの少女達の仮面の厚さだった。何か綻びを見つければ、上手くそこから斬り込めるのに。

 そうは思っても、ソフィーは新参。比べて周りは歴戦の戦士達だ。罠を撒いても、餌を吊るしても、そう簡単には引っ掛からない。


 貴族制度から外れた国の裕福な者達から見れば、思春期な少女達のオママゴトに見えるだろう。


 しかし、こうして女性が切磋琢磨する事で発展してた歴史がこの国にはあるのだ。


 ソフィーが微笑みを浮かべてチャンスを窺っていると、他のテーブルから色のついた囁きが聞こえた。


「まあ、レオ様だわ」


 その言葉を聞いて、少女達は階下が見える場所へと移動していく。


 レオ様とは。このサロンに参戦するに向けて、歴戦の戦士達の情報を集めて母と作戦会議したソフィーであったが、『レオ様』と呼ばれる人物はノーマークだった。疑問符で頭をいっぱいにしたソフィーに、一人の少女が声をかける。


「ソフィー様もご覧になりませんか?」


 ミア・ギュスターヴ・イーストプール。


 先程のテーブルで、一番強い力を持つ少女。

 おっとりと喋るその裏で、掴まれる脚を持たずゆらゆらと漂う。


 ソフィーは、ええ、と返事をして着いてく事しか出来なかった。


 周りの令嬢に倣い、ソフィーが階下を覗くと、一人の騎士が剣を奮っているのが見える。


 武芸に疎い少女でも、見惚れる程の洗練された剣捌き。白銀色の甲冑から覗くその顔は、有名な画廊に飾られる絵画に描かれた、どの美男よりも美しい。


 光を透かす白金の髪。薄氷の瞳。白磁のような肌。


 思わず、ほうと息をついてまう程の美青年であった。


「あの方は」


 思わず声が漏れ出た様に、ソフィーが短く言うと、横で階下を覗いていたミアが答えた。


「第十三騎士団・団長のレオ様ですわ」


 王国お抱えの騎士。しかし、十三ともなるとソフィーには予備情報は一切なかった。一代限りの名誉男爵であろうか。


「あれだけ美麗な殿方であれば、数多の女性が放ってはおきませんね」


 ソフィーの呟き通り、このサロンに参加している全ての令嬢が階下を覗いていた。


「ふふふふ、よく考えて下さいまし」


 そう言って、ソフィーの呟きにミアは笑う。


「衛兵でもなく、戦もないのに、何故あのような場所で甲冑を着てらっしゃるのでしょう? 騎士団の訓練場所ではなく、陛下の為に庭師が手掛けた庭園の真ん中で、何故剣を振ってらっしゃるのでしょう?」


 その言葉で、ソフィーは熱が一気に醒めていくのを感じた。


 整った顔かもしれない。美しい剣技を披露しているかもしれない。だからといって、王族の住居と距離は離れていても、陛下がお通りになられる可能性のある王城内で()()()()()()()()()()()()()()()()()()考えうるのは爵位の返還、もしくは実刑。場合により反逆罪と見做されれば、一族郎党公開処刑になる可能性すらある。


 あれは何なのか。何をしているのか。


 まるで、愚かな行為をする子どもに向けるのと同じ気持ちをソフィーが抱いた時、ミアが隣で囁いた。


「あの方は特別なのです。私達は、こうして眺めている事だけを楽しみましょう」


 レオという美青年はヤベェ奴だ。離れた所から見ている分には、イケメンだから楽しいよ! というのを幾十にもオブラートに包んだ言葉をソフィーは受け取り、神妙に頷く。


 ソフィーは、まだまだ己の勉強不足を実感すると共に、可愛い顔して辛辣な事を言うミアと仲良くなれそうだと感じた。

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