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最強魔術師は無職です  作者: 十字たぬき
記憶の上映 2

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17




 それから季節が一巡りした頃、他国との騎士団の交流試合でレオは華々しい成績をあげた。


 王城の間で陛下から直々に表彰されるのは、騎士の生涯の誉れと言っても過言では無い。


 そんな中レオは心臓が破裂しそうだと錯覚するほど緊張していた。


 陛下から勲章を授与するからではない。


 これからレオは、良い子ちゃんだった自分と決別し新たな人生を歩むのだ。


 表彰は終わり、そのまま会場で祝賀会が行われようとした時、レオは立ち上がり声を上げた。


「陛下! 恐れ多くもお祝いを!」


 言葉と共に駆け出した。その腕に何かを抱えているのに気づいた王家の護衛が立ちはだかる。


 しかし、護衛も虚しくそれは王に届く――――


 ()()()()()()()()()()()()


「他国のお祝い事では! 勝者が酒を掛け合い勝利を祝うそうです!」


 そう言って、レオは片膝を付きまだ栓を開けていない発泡の瓶を献上するように掲げた。


 一同が唖然とする中、姿を隠して会場にいたクロは精神操作の魔術をかける。


『みんなの笑いのツボが浅くなるように』


 人の感情を捻じ曲げた訳ではない。少しでも友人の助けになるようにとかけたおまじない。


 しかし効果はてきめんだった。


 威厳のある顔を保ちながら酒を滴せる王を見て、護衛の一人がぷっと噴き出した。それは勢いよく伝搬し、会場中で笑い声が上がる。


 本来ならばあり得ない事だ。


 唯一笑わなかった王がロベルトの掲げた酒を受け取ると、勢いよく振ってコルクを開けた。

 辺りに酒を撒き散らしながらガバハと豪快に笑う。


「皆ども、我に続け!」


 その声を合図に、屈強な男達が祝賀用の酒を奪い合い始めた。酒を掛けて、掛けられて。意味もなく雰囲気で笑う。



「あれー? なんかやり過ぎた? ……ま、いっか」


 そう言ってクロもシャンパンファイトに参戦した。


 後日、箝口令が敷かれる事となるが、レオが望むままななりたい自分として華々しくデビューできた日だった。つまりは、王都に住む貴族令嬢が枕を涙で濡らした夜でもあった。





「良かったな」


『良くねぇよ』


 声が聞こえた。ふと疑問に思うと、メリーは意識を無理矢理引っ張られ浮上した。






――――――――――



「おい、どこも悪くないか?」


 意識を浮上させたメリーの気分や精神がおかしくないかクロは確認した。


 まず身体の事を気遣ってくれるなんて! とその言葉にメリーは歓喜する。


「クロ様大好き!」


「大丈夫そうだな」


 愛の言葉をクロはあっさりスルーし、深く溜め息を吐いた。


「…………全部見たんだろうな」


「…………全部見ちゃいました」


「うああああ!! マジで穴があったら入りたい。世界の反対側まで穴開けてこようかな……」


 そう言ってクロは顔を両手で隠しながらしゃがみ込んだ。それを見てメリーは少し悪い気がしたが、反省するような性格なら最初から他人の記憶なんて覗かない。


「クロ様クロ様」


「なんだよっ」


「おかえりなさい」


 まだ顔を赤くしながらも、指の隙間からクロはメリーを見た。


『おかえり』と言って、待っていてくれている。それがクロにとって何よりも嬉しかった。


「あー!! もう!!」


 恥ずかしさを紛らわすかのようにクロは頭を掻きむしり立ち上がった。


「カッコ悪いとことかさ、キモいとことかあったと思うけど、それでも俺の事好きなの?」


「クロ様はカッコ悪くないし、キモくないよ。もしカッコ悪くてもキモくても、クロ様ならそれも含めて全部を愛するよ」


「…………そっか」


 文句は沢山あれど、クロは一旦口を閉じた。

 それを言う為に戻ってきた訳ではない。頭を冷やし、自分の気持ちに正直になる為ここにいるのだ。


「時間は掛かったけど、誰かと生きていく決心ができた」


 その短い言葉に、先程まで見ていたクロの過去や辛い経験をメリーは思い出した。


「メリー好きだよ」


 全てが凝縮したその一言。

 その一言に、メリーは喜ぶ事も出来ぬまま涙腺を決壊させた。


「ええ! 待って! どうした!?」


「うう……これは、嬉し、涙。ありがと、クロ様。私を選んでくれて、ありがとお……」


 突然泣き出したメリーにクロはあたふたする。ここでスマートに出来るような男なら、とっくにメリーに告白していただろう。


「待って、今ハンカチ出すから」


 魔術でハンカチを出そうとクロが掌を上に上げようとして、そのままメリーを抱きしめた。


「えっ!!」


 クロらしくない強引な動作にメリーは驚き視線を上げると、クロが真剣な眼差しで宙を見つめていた。

 何かいるのだ。そう咄嗟に理解したメリーも、谷間に忍ばせた護身用のスクロールに手を伸ばし臨戦体制に入る。




『馬鹿みたい』


 そう吐き捨てながら、宙に金髪の幼女が現れた。


「誰だよアンタ」


『言ってもわかんないから言う必要もない』


「何しに来た?」


『圭ちゃんだけ幸せそうでウザかったから、その幸せぶっ壊しに来た』


 話が通じているようで通じていない。気味の悪さを感じ、クロはメリーを抱きしめる手を強め思いつく限りの防御の魔術を掛けた。


 それと同時に、この世界で()()()()と初めて呼ばれた事にクロは驚いていた。この幼女は誰なのだろうとクロは記憶の中を手探りで探す。


『てかさ、アタシが間違えてたよね。イラッとしたからその女殺したのに、やっぱ生き返らせちゃうし、本当無意味』


 ハァとわざとらしく溜め息を吐く幼女は、身なりと行動がチグハグしていて、それがクロとメリーの目にはより奇妙に映った。


「殺されたくないし、殺したくもない。戦いたくもないんだけど、アンタの目的は? 俺が出来る事ならする」


『…………ばあちゃんに会いたい。圭ちゃんと三人で縁側に座ってオヤツ食べてた頃に戻りたい。幸せだった頃に返してよ!!』


 ヒステリックに声を上げる幼女。

 突然の登場に意味が分からなければ警戒すべき対象であるのに、クロは油断した。感情のままに叫ぶ幼女を可哀想だと思ってしまったのだ。


 クロが気づいた瞬間には手遅れで、彼は凄まじい光の本流に流された。


 次にクロが目を開いた時、目の前には先程の幼女がいた。正しくは、幼女以外の何もないただ白い空間が広がっていた――――



長くなりましたが、第二部二章・記憶の上映2完結です。


だいぶ駆け足ですが、次回から最終章となります。最後までお付き合いいただけますと幸いです。


本作・短編問わず、感想・評価・ブクマ・レビューくださった方ありがとうございます。

「ありがてぇ……」「犯罪的だ……うますぎる」と某ギャンブラーのセリフを思わず呟きながら作者たぬきは喜んでおります。


最後まで駆け抜けますので、よろしくお願いいたします。

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