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最強魔術師は無職です  作者: 十字たぬき
記憶の上映 2

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16




 ロベルトが目を覚ますと、まず自身がベッドに寝ている事に驚いた。


 彼の家は、家とも呼べないような布で屋根をつけただけの小屋なのだ。


 ロベルトは辺りの様子を探りながら上体を起こす。その後手を握ったり開いたりして、身体が正常に動くか確かめた。


「起きたか?」


 部屋の入り口から声がしてロベルトが目を向ければ、上等な身なりをした格好の男が部屋に入ってきた。


「アンタがこの家の主か?」


 聞きながらも、ロベルトは違うだろうと思った。自分が住む場所と比べればしっかりした建屋のようだが、目の前の男が住むには粗末に見えた。


「そうでもあるし、そうじゃないとも言える。僕はレオだ。喉が乾いてるだろうからお茶でも用意させるよ」


 そう言ってレオが背を向けた時、ロベルトは即座に身を起こしてその背に飛び蹴りをかます――――


――――筈だった。横からいきなり現れた黒装束の男に身体を倒され、ロベルトはそのままベッドに倒れ込んだ。


「畜生!!」


 初手を封じられればもうどうしようもないと、ロベルトは悪態をつく事しか出来ない。


「もしかして忘れているのか? 君が僕を助けてくれたんだが、記憶が抜けているようだ」


「俺が?」


 そのレオの言葉は、ロベルトにはどうにも胡散臭く聞こえた。


「盗賊紛いの者に馬車を襲われた時にね、君が身体を張って助けてくれたんだよ。だがその時の残党に頭を殴られてしまって、君は今の今まで寝ていたんだ」


 見たことも無い上等な生地を着たレオであれば、乗る馬車も相当豪華なのだろうとロベルトは思った。であれば、勝算があれば恩賞を期待して盗賊を追い払う事は確かに自分ならやるかもしれないと彼は思う。しかし、それにしても違和感が強いとロベルトは感じた。


「俺の仲間は? 他にも子どもがいただろう?」


 眉を下げて、ロベルトは緩く首を振った。


「事が落ち着いた時には、生き残っていたのは君だけだった」


 それは嘘ではないだろうと、ロベルトは素直に受け入れた。辛くも、少し安心してしまった自分を責めながら、ロベルトは口を開く。


「なんで俺なんか助けた?」


「命を救ってもらったんだ! 君に恩を返すのは当然じゃないか!」


 やはりどこか胡散臭い。そう思ったロベルトは、意地の悪い質問を探す。生鮮与奪の権はレオが握っているのだ。その位の仕返しをしたっていいだろと彼は思った。


「じゃあ、アンタは俺に何を与えてくれるんだ?」


「話を創る場所と金だ!」


「…………は?」


 レオが何を言っているのかロベルトは理解に苦しんだ。どう見てもスラムの人間を捕まえて、何故話を創るなどと言うのか。


「生死を彷徨い熱に浮かされながら君は、いくつかの物語を僕に聞かせてくれた。あれは本にして多くの人に届けるべきだと思った」


 まさかとロベルトは思った。

 確かに子ども達に話を聞かせた。願いが叶うなら、くそったれな生活から抜け出して話を創る生活をしたいと夢想した。しかし、それが生きるか死ぬかの瀬戸際で人に聞かれるなどとは思いもしなかった。


 顔から湯気が出ているんじゃないかと錯覚する程熱くなり、掌でロベルトは顔を隠した。

 そうする事でロベルトは少し落ち着き、ふと顔をあげた時にレオの後ろに控えた黒装束の男が気になった。


「アンタも聞いたのか?」


「……うん。孤独な勇者の話、面白かったよ」


 男が呟いた話は、確かにロベルトが作った物だった。人に認めて貰えると言う事がこんなにも嬉しいのかと、状況も忘れてロベルトは喜びで心を震わせた。


「ローラ。入ってきなさい」


 レオが声を上げると、エプロンをつけた女性がカップを三つ持って部屋に入ってきた。レオ、黒装束、ロベルトの順にカップを配り終えるとレオの後ろに控える。


「彼女はローラ。文字を読めるし書ける。料理も出来るし金勘定も出来る有能な侍女だ。彼女を置いていくから生活の心配はしなくていい。また僕に素敵な話を、今度は本に纏めて読んでみたい」


 こんな夢のような話があっていいのだろうか。

 本来は仲間の死にもっと心を痛めてそれどころではない筈だ。……いや、そんなことないな。命は軽い。俺はスラムの人間だから、人一倍チャンスには目敏かった筈だろう。なにをビビってんだ。騙されたとしても、奪って俺の幸せを掴み取ってやる。


 ロベルトはそんな風に心の中で整理をつけると、レオに真っ直ぐな眼差しを向けて頷いた。






「本当に良かったのか?」


 ロベルトとローラを屋敷に残し、その上空でレオは尋ねた。


「うん。ってか、アンタ演技上手いな」


 隣でのほほんと笑うクロを見て、レオは小さく息を吐いた。


 クロとローラで決めた設定。その通りにレオは演技をしたが、彼からすればもう少しやりようがあったと思うのだ。大切な友人、大好きな想い人ならば尚更。


 しかし、レオはそんな二人が羨ましかった。好きに生きると決めて、死んだ友人を蘇らせたクロも、想い人に過去を告げずに寄り添うと決めたローラも。

 もっと言えば、過去を乗り越えたメリッサだって羨ましいし、過去を生きたメアリーだって羨ましい。自分にレオなんて名前をつけた両親だってロベルトはひどく羨ましかった。


 そこでロベルトは気づく。


「無いものねだりばっかで、僕は空っぽだ」


 正しくは、気づいていたが認めなかった。周りから認められるがまま、期待に応えるようにレオは生きてきたのだ。本当は恵まれているからつまらないのではない。自身が空っぽだから、つまらないのだと漸くレオは事実を受け入れた。


「そう? 空っぽじゃなくね?」


 クロは特に考えずに返事をした。


「いや、君達が羨ましい程に僕は自分がないんだ」


 ちょっとしたワガママが冒険に感じた位に。その言葉は辛うじてレオは飲み込んだ。


「じゃあさ、レオもこれから好きに生きたらいいじゃん。好きな事とかやりたい事もねぇの?」


「子どもの頃は騎士に憧れたかな」


「なったらいいじゃん」


 簡単に言う、とレオはクロに少し苛立ちを感じた。そのせいか、珍しくも感情的にそのまま言い返す。


「なれると思うのか? 公爵家の長男だぞ僕は」


「次男はいないの? いても結構なバカとか?」


「いや、よく出来た弟だがそれとこれとは話は別だろう?」


「だって、貴族って長男が死んだ時とか代わりに次男が継ぐように出来てるんだろ? メアリーがそんな事言ってた気がするけど」


 そう言われてレオはハッとした。クロの言い分は正しいのだ。長男の替え玉になるよう次男も同じ教育を受ける。もっと言えば、レオには男兄弟が五人もいる。


「……あれ? 違ったかな?」


 しばし黙りこくったレオを心配してクロが声を掛けると、何かを決意した表情でレオは顔を上げた。


「どうせだったら、華々しくデビューを飾りたい」


 一体なんのデビューなのか。それはエリートイケメンが、出世街道から道を外した第一歩だった。

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