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最強魔術師は無職です  作者: 十字たぬき
記憶の上映 2

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13




「レオ様、もうこの辺りでよろしいかと」


「いや、あっちに行きたいんだ僕は」


 身分差で強く言えない護衛達をスルーしながら、レオは心の向くままに森の中を進んでいた。


 地図は見ていない。地形も把握していない。光は屋上から降りた瞬間に見えなくなった。そんな状態のレオだが、こちらの方だと告げる勘を信じて進んでいく。


 理由もなしに突飛な行動をするのは、実はこれが初めてのレオだ。大人の言う事を聞くいい子として、よく出来た貴族子女のお手本として生きて来た。

 だから、この追いかけた先に何もなくたって良いと既にレオは感じていた。そう思うくらいには、初めて言うワガママと困惑する周りを見るのが彼にとって楽しく思えた。


 しばらくすると、少し開けた場所に出た。


 ここが目指していた場所なのだとレオは感じる。馬から降りて辺りを見回してみるが、光源のような物は一切見当たらない。


「何もなかったか」


 残念そうに呟いたレオだが、特に何が起きるとも思っていなかった。十七年間何も起きなかったのだから、その方が当然の事のように思える。しかし、確かめたからすぐに帰るかというと話は別だ。困った顔の護衛を横目で見て楽しみながらレオは牛歩でその地を歩いた。


 一歩、二歩。意味もなく何かを確かめるフリをして十三歩目を踏み出した時、レオは何かにつま先がぶつかったような気がしてふと立ち止まった。


 レオがなんとなく手を伸ばしてみると――――


 突如一面に光が溢れ、レオの目前に植物に取り込まれた屋敷が現れた。


 突然の出来事にレオは目を見開いたまま立ち尽くした。周りの護衛達も武器を構えたものの、不可解な出来事にただ辺りを警戒する事しか出来ない。


 興奮と共に上昇する身体の熱とどくどくと脈打つ心臓を感じながら、身体と心が初めて連動したとレオは思った。今までレオが空想に描いたどんなことより不可思議な出来事が目の前で起きたのだ。今までの憂鬱も悩みも全て忘れて、焦がれ続けた不可思議にレオは目を輝かせた。


「お待ちください」


 はやる気持ちでドアノブらしき物に手を掛けようとして、流石にレオは護衛に止められた。


 レオは負けずに、出来る限りの駄々をこね、思いつく限りの圧力をかけ不可思議な屋敷の中に入る事が決まった。


 先導しながら行先の天井から垂れる植物を切っていく護衛。その後を追うように、植物が這い朽ちた屋敷の中をレオは進む。

 置いてある絵画や食器を見るに、どうやら最近の物ではないようだ。下手したら数百年昔のものかもしれない。視覚より得られる情報から楽しくレオが考察してると、他の部屋から声が聞こえた。


「人が! 人がいます!」


 声のする方に行ってみれば、朽ちた屋敷とは真逆の状態のベッドがそこにあるのをレオは見た。中心では、鎖帷子(くさりかたびら)を着たままベッドに横たわる黒髪の青年が目を閉じてそこにいた。


「生きているのか?」


 レオが問えば、部屋を見つけた兵士が頷く。黒髪の青年に視線を戻すと、微かにその胸が上下しているのにレオは気づいた。


「レオ様! お待ちください!」


 護衛の止めようとする腕を跳ね除け、レオはずかずかとベッドに近寄る。おもむろに横たわる青年の肩を叩くとそのまま声を掛けた。


「君! 大丈夫か! 聞こえるか!」


 何度か肩を叩くが起きる気配のない青年に諦めかけた時、ゆっくりと瞼が開くのをレオは見た。


「君、大丈夫か!?」


 しばらく(うつろ)な視線でぼんやりと目を開けていた青年だったが、しばらくすると目に生気が宿り驚いたように上半身を起こした。


「レオ!? なんでここに!!」


「君、僕を知っているのか?」


 謎の青年が自身の名を呼んだ事でテンションを上げたレオだったが、反対に青年の目は徐々に暗く沈んでいった。


「いや、大丈夫だ。魔術は発動してる」


 レオ達の存在を無視するかのように青年はぶつぶつと呟く。しかし、青年の様子はお構いなしに興奮したままレオは拾った呟きに目を輝かせた。


「君は魔術といったか? たかが魔術のようなもので、この奇妙で不思議な屋敷を作ったのか!?」


「奇妙……不思議……」


 レオの言葉に青年は部屋の中を見回して、ようやく現実を理解し驚いた。


「何年経った!? 君、レオナルドじゃないの!?」


「レオナルドといったか!? もしや君は僕にそっくりな王と出会った事があるのか!?」


「ちょ、そっくり!?」


 青年は宙を見つめると、大きく目を見開きそのまま固まった。


「おいおい、疲れたとは思ったけどどんだけ寝んだよ俺……」


 呆然と呟く青年に、レオは高いテンションのまま質問を続ける。


「もしや過去から来たのか? さすがに、それはないか。とりあえず我が家に来ないかい? 是非話を聞かせてほしいんだ! 僕はレオ。君の名前を教えてくれ!」


 早口なレオに青年は驚いた顔をしたが、次の瞬間には今にも泣き出しそうな顔で(かぶり)を振った。


「起こしてくれてありがとう。でも、俺と関わるとロクな事ないからさ。やめたほうがいいよ」


「そのロクな事ないのに是非僕を巻き込んでほしい! 僕の初めてなんだ! 僕が非日常に触れたのは、君が初めてなんだよ!!」


 熱烈に嘆願するレオに青年は困ったような笑顔を向けると、次の瞬間にはその場から消えていた。


 白昼夢のような出来事。レオは自身の妄想が招いた夢かと疑ったが、目の前にあるベッドのシーツには先程まで人が寝ていたかのような皺が残っていた。

 周りを見れば、同じく消えた青年を目撃した護衛達が困惑した表情を浮かべている。


「彼は実在する。これは事実だ。僕の非日常を絶対離すものか」


 決意を込めてレオは呟く。離すどころか掴んでもないのだが、レオは自分が主人公の物語がようやく幕を開けたと信じた。何より、光の導きがあったようにまた彼の青年と会える確信をレオは感じていた。






 それからしばらくレオは日常に戻った。辺境の地でした行動も、結局鹿を狩って振る舞った事で辺境伯夫人からは『田舎に合わせたお礼がしたかった』のだと好意的に受け取られた。完全に美形の貴族子女に対して脳内フィルターが掛かっていたようだ。


 父の仕事に少しずつ携わる中で、ふとレオは王都が気になった。社交界シーズンは終えたばかりだ。しかし、彼はこの胸騒ぎを無視出来なかった。


『婚約者を探しに王都に行って参ります』


 適当にレオは理由をでっち上げたのだが、今まで結婚相手は母に任せるスタンスを取っていたのに、突然そんな事を言うものだから周囲は驚いた。しかし、可愛い息子の願いだと父はその願いを受け入れた。かくしてレオは王都へと旅立つ。


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