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メリーは、俯瞰した立場でそこからしばらく先を早送りで見ていた。
イーストプールに連絡も無しに突然訪れたメアリーの父親は、クロとロベルトの前でだけ戯けて振る舞っているように見えた。
俯瞰した立場のメリーから見て公爵である彼が平民にそんな姿を見せるなど何か企んでいるのは明らかだったが、クロ達もそれに気づいたようで時折魔術を発動させて何かを調べていた。
その後まもなく魔術式は完成し、イーストプールの開発は完全にクロ達の手から離れる。
メアリーが帰省してから暫くすると、クロとロベルトは王城に招かれ陛下に謁見をした。
王家の席に座っている中の一人がレオにそっくりな容姿をしていてメリーは驚いた。その彼がメアリーの婚約者だと知ると、関係もないのになんだかメリーは微妙な気持ちになった。
そんな厄介な容姿を持つレオ似の王子と共に、クロとロベルトは辺境の街へと向かう。
そのすぐ近くの山にはワイバーンの巣があり、街の至る所に被害が出ていた。
王子の指揮という建前の上で、クロと魔術式で補佐をするロベルトが王国の騎士団と共に初陣に向かう。
初めて見るワイバーンに二人は目を輝かせていたが、一度戦闘が始まればその表情は一変した。
クロは、無謀に立ち向かい怪我をする人々を見て苦痛の表情を浮かべた。だが、アレンの一件があったからか、彼は心を壊す事なく持ち堪えた。
結果的には堪えきれなくなったクロがワイバーンを殲滅して終わったが、貴族達からすると期待通りの結末だったようだ。
モンスター討伐のため何度か遠征した後、その時は来た。
「なんで戦争なんかするのかな」
決戦前夜、クロは薪を見つめながら呟く。
時代の波に乗り他国との貿易を盛んにして国を発展させようとする現王政に意を唱える派閥があった。旧王家の血を引くという青年を旗印にし、同じく右思想の強い教団を取り込み今回の戦にまで発展した。
だが、そんな事はクロには関係ない。人が誰か殺すのも、人が誰かに殺されるのも彼にとっては嫌なのだ。
「己の利益を求めた結果だろ。獣と一緒だ」
ロベルトは冷静に答える。今の自分には必要ないだけで、生まれや育つ場所が違えば戦を望む彼らと同じようになっていたとロベルトは自覚があった。
「まあ、アンタはそれを止めたくてここにいるんだろ? 全員生き返らせるんだろ?」
そう言いながら、ロベルトはニヤリと笑う。
「うん。アレンの時は駄目だって言われたけど、俺はこの力で人を死なせずに戦を終わらせたい。死んでも生き返らせて、戦争の無意味さを伝えるんだ」
決意のこもったクロの言葉に、ロベルトが真剣な目を向け頷く。
「いいよ、アンタが決めたんだから。アンタは神になれ」
クロが頷いたのを見て、ロベルトは立ち上がった。ゆらゆらと揺れる薪の灯りをその身に浴びて両手を広げる。
「全て片付けたら、全てから逃げよう。
一から始めよう新しい土地で。
働きもしない自堕落な魔術師のアンタと、
話を創るしか脳が無い無一文の俺でさ」
ロベルトらしい、詩的な励ましだった。
よく通る声は変わらず、クロはあの夜を思い出して少し鼻がツンとするのを感じた。




