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最強魔術師は無職です  作者: 十字たぬき
記憶の上映 2

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「星のマークってよくアニメで見たイメージなんだよね」


 そう言ってクロはテーブルに広げた大きな紙に五芒星を書いた。


 木・火・土・水・金


 それぞれ頂点に書き加えるとクロは顔をあげた。


「水は火消すじゃん、火は金属溶かすじゃん。なんかそんな感じで何かは何かに強いし、逆に水を吸って木は育つし、木を燃やして火は大きくなるみたいな」


 恐らく陰陽五行説をモチーフにしたアニメから得た知識を物凄くふんわりとクロは語るが、ロベルトは興味津々に頷いている。


「小さい頃かっけぇって思ってたんだけどさ、なんか使えそうじゃない?」


 クロが提案しているのはまさに、魔法陣(仮)のベースとなる案である。


「よくわからないけれど、これじゃ誰でも簡単に真似出来るのではなくって?」


「そう! だからここに、とあるものが必須になってくる!」


 そう言ってクロは星の周りに円を描くように文字を書き始めた。


「水兵リーベ僕の舟。えーっと、七曲がるシップスクラークか」


 音程があるのかないのかわからない微妙なトーンで呟きながらクロが書いたのは元素記号。


 意味のわからない文字の羅列にロベルトとメアリーは一気に難易度が上がったと苦い顔をした。


 クロはクロで、五芒星の円周上に元素記号を並べたかったのに微妙なところで終わってしまったので、+−÷×と取り敢えず思いつく記号で埋めている。


「これはなんだ?」


「元素記号って言うんだけど、例えば水は水素に酸素が二個くっついて出来てる。だから水の魔法を使いたいなら○を二個この星の近くにつける。そうすると発動するようにするんだ」


 それを聞いたロベルトとメアリーは黙った。二人とも知識人ではないのだ。地球由来の単語を使われてはもう何がなんだかわらない。

 クロが小学生並みの思考回路で魔法陣(仮)を作っていることも、中学で勉強に挫折した事実も推測すら出来ないのだ。


「でも、やっぱ光と闇は必要だよね? あとは物動かすなら何か動かせそうなやつ付けなきゃ駄目っしょ」


「それについてはアンタに任せる。いくつか使えるものが出来上がったら教えてくれ」


 ロベルトは魔法陣(仮)はクロに放り投げてメアリーに視線を向けた。


「それより、この力は『魔法』でいいのか?」


 メアリーは二人と出会った時、魔法という言葉に過剰に反応した。当時はわからなかったその意味を、ロベルトはこの三年のうちに理解した。


 国教の創世記では、神が魔を滅ぼし人間が住める場所を作り始める所から語られるのだ。


『魔』が制定する『法』。


 そんな物騒な言葉を聞いて、メアリーは当初パニックを起こした。


「魔法はやはり駄目よ。しかし、魔という言葉は取り入れたいの」


「何故だ?」


「それを貴方に言う必要はないでしょう?」


 その言葉に、ロベルトは額に青筋を浮かべた。


「アンタここまできて何でまた――――」


「魔術はー? 技術馬術算術って、なんかワザ? 能力的な?」


 魔法陣(仮)を書くのに夢中なクロは、ロベルトとメアリーの様子を見る事なく聞こえた言葉に答えた。


「魔術……有りね」


「ちっ。じゃあ、クロが書いてるのは魔術式でいいだろ」


 舌打ちと共にロベルトが投げやりに言えば、納得した顔でメアリーは頷いた。


「決まりね。私はお父様に手紙を書いてくるわ」


 そう言って颯爽(さっそう)とメアリーは室内から出ていった。


 しかし、メアリー専属である筈のルーラは室内に残っている。


「どうした?」


 ロベルトが声を掛けると、ルーラは辺りを見回してから口に人差し指を当てた。それを見て、ロベルトは魔法陣(仮)を書くのに夢中なクロの肩を叩きルーラを指差す。


 三年という月日は短いようで長く。そのジェスチャーだけでクロは理解し、この場の三人に心の中で会話できる念話の魔法を掛けた。


『ここはもう既に盗聴されています』


『誰にだ!?』


 ロベルトが強く問い詰めれば、ルーラは静かに目を伏せた。


『メアリー様のお父様でございます』


 クロとロベルトには意味がわからなかった。


『メアリー様からの伝言です。魔術式が出来上がったらすぐに立ち去りなさい』


『ちょ、え、なに? 全く意味がわからないんだけど!?』


『ここからは私の独断でお話をします。メアリー様もそれに目を瞑ってくださったから、この場があるのでしょうが』


 ルーラはそっと目を閉じると、一つゆっくりと息を吸ってから語った。


『近々国内で戦争が起こります。メアリー様はあなた方を巻き込みたく無いので、この伝言を私に(たく)しました』


 戦争。二人には全く縁のない言葉。だから、いきなり言われても実感どころか理解すら出来ない。


『別に俺達ならクロの魔法でなんとかなる』


『違います。このままだと、あなた方は戦争の道具として利用されます』


 その言葉にロベルトは初めて出会った時のメアリーをふと思い出した。


 彼女は何と呟いたか。


――――これは、あなたと出会えた私達の勝ち戦ってことね。


 ロベルトの脳裏に蘇る記憶。確かに彼女はそう言って不敵に笑った。


『メアリーは、クロを利用しようと思ったんじゃないのか……?』


『最初はそう思ったのでしょう。しかしメアリー様にとってこの三年は長く、きっと大切なものになってしまった』


 その言葉にロベルトは怒りを覚えた。

 そう感じたのは彼女だけではないのだ。ロベルトもクロも、淡々と語るルーラだってそうだった。


 なのにメアリーは勝手に別れを告げた。二人を守った気になって、傲慢にも彼女だけが生き急ぐ。


『じゃあ、アイツもアンタも俺達と一緒に逃げればいいじゃないか!』


『それが出来ると思うのですか? メアリー様の生きる世界は此処ではないのですよ』


 その言葉にロベルトはハッとした。

 住む世界が違うなんて最初から彼には分かりきっている。それよりも、目の前のルーラだって、同じ思いを抱えている事に今更気づいたからだ。

 落ち着いてみれば、ロベルトには淡々と語る彼女の無表情な顔が見えた。その色は不健康に白く、よく見れば顎を引いて隠された首筋には筋が浮いているのがわかる。必死に奥歯を噛み締めて気持ちを抑えているのだ。


『あなた方と出会った時には既に始まっていたのです。もうどうにもならないのですよ』


 出会った時と言えば、メアリーが攫われた時である。


 どうにもならないという言葉に、ロベルトもギリっと音が鳴るほど奥歯を噛み締めた。


 その時、ふと視界がブレたような感覚をロベルトは感じた。心に偏ってた意識を外に向ければ、一定のリズムが耳に届く。


 カツ、カツ、カツ


 三拍子のリズムで部屋中のありとあらゆる物の色が変わっていく。それも一色ではない。同時に何色も、時には柄までついて、壁紙や家具、床も天井も全てが色んな色へと移り変わる。


 カツ、カツ、カツ


 目まぐるしく変わる目の前の光景にロベルトとルーラが平衡感覚を狂わされた時、今まで黙っていたクロの言葉が届いた。


『ちゃんと俺毎日特訓してたからね』


 言いながらも、足で刻む一定のリズムと共に部屋の内装は目まぐるしく変わる。


『頭は良くないけど、パズルゲームは結構好きなんだ俺』


 脳内で響く声とリズム、鮮やかな光景にロベルト達がおかしくなりそうな感覚に陥った時、


 世界はモノクロとなり停止した。


『よくわかんないけど、戦争があるんでしょ? 俺はメアリーだけを行かせはしない』


『クロさん! メアリー様の気持ちも――』


『知るか。別に利用されたっていい。俺達だってただの馬鹿じゃないし』


 一呼吸置いて、クロが強い眼差しでロベルトを見つめる。


『アレンの時みたいには絶対にしない。だからロベルト、一緒に行こうぜ』


 その言葉に、ロベルトがいつものようにやれやれと言った感じに溜め息を吐けば、次第に空間が色を取り戻していく。


『バカ、さっきのは悪趣味だ』


 そう言ってロベルトは笑った。

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