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「俺は見たぞ!! すぐに取り替えろ!!!!」
「いいじゃないか、たった一口だ」
「うるせぇえ!! それでも嫌だ!! 誰がおっさんと好き好んで間接チューなんかするかぁあ!!」
今日も今日とて、酒場・メロウツリーは賑わっている。
一際騒がしいテーブルでは、クロが客の胸ぐらを掴んで怒鳴っていた。カードに夢中で、間違えてクロのジョッキに口をつけたらしい。
カランカランと来客を知らせる音に、常連が過剰に反応しなくなったのは最近の話だ。
飯はそこそこだけど、冷えたエールが飲みたい。
しかし、それが身の危険を感じさせる場所となれば話は別だ。
普通なら来なければいいものの、ビクビクしながらも居座る客達は馬鹿なのか。それとも、この店にはエール以外の魅力があるのか。なんだかんだ、非日常感を楽しんでいただけなのかもしれない。ここには酔っ払いしかいないのだから。
安心しきった酔っ払い達が、新たな客の足音がする度に静かになっていく。
「…… おっと、そろそろカミさんに怒られる時間だわ」
一人の男がそう言って、無事店内から脱出する。それ見届けてから、他の客達も足早に続く。
「お、俺も!」
「ごっそさん!」
「待て、置いてくな」
黒の背広、その格好の意味をこの街で知らないものはいない。
いつかあった光景。どこか違うのは、今日は黒服が二人しかいない事だろうか。
「おい、金払えばいいってもんじゃねぇぞ。店は信用が命なんだ」
「それはすまない。信用の代わりと言ってはなんだが、安全を提供することは出来るぞ」
いつかここに来たとは違い、この街の顔役としての雰囲気を纏ったユリウスが立っていた。
「俺がいるのに必要か?」
「それもそうだな」
そう言ってユリウスは笑った。背後に立つ部下に顎で指示を出すと、抱えていた荷物をそっと床に降ろした。
「うっわ、趣味の悪い運び方」
「仕方ない。商業柄恨みを買う事もあるから、守るべきものは隠す事に越した事はない」
降ろした荷物の布を外せば、血色を取り戻したリリィがそこに立っていた。
「リリィが挨拶をしたいと言ったから連れてきた」
クロの向かいに腰掛けたユリウスの袖を掴んで、リリィは少しモジモジしていた。
年齢に反してそれが幼くとも仕方ない。大事な成長の時期を奪われてきたのだから。
「はじめまして。それと、ありがとう」
「どういたしまして。それと、ばいばい」
次の瞬間、リリィはそこから消えていた。
「!!!!」
言葉も出ず、ユリウスはただ目を見開く。
「人目につかないよう送ってやったんだよ。ほら、連れてきたやつも一緒に送ったからいいだろ」
ダルそうにクロは言うが、ユリウスにそれを今すぐ確かめる術はない。
恩人の言葉は信用することができたが、心臓に悪いとユリウスが溜め息をついてしまうのも仕方のない事だ。
「いいか、これは大事なことなんだ」
しかし、真面目な顔で低く言われてしまえば、ユリウスは先程の破天荒にも意味があったのだと気が引き締まる。
「俺はおっぱいがデカイ姉ちゃんが好きだ。ロリっ子に好かれても困る」
「…………」
真面目な顔で言うことではないはずなのに、クロはとても深刻な話のように続ける。
「ロリイベントをきっかけに、強制ロリハーレムルートに突入してもアンタ責任とれねぇだろ!?」
腕は確かで規格外。だけれど、人格はおかしい。
「ま、なにはともあれ一旦お疲れ。快気祝いに飲もうぜ! お前の奢りで!」
だが、扱いづらいその恩人をユリウスは気に入っていた。
毎日は共にいたくはないが、酒を酌み交わすのを嬉しく思う程度には。
「「乾杯」」
一章完結です。
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