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最強魔術師は無職です  作者: 十字たぬき
記憶の上映 2

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4




「私はメアリー・レイクロウ。改めて礼を言うわ。危ない所を助けてくれてありがとう」


「俺は黒……えっと、クロ!」


「俺はロベルトだ。アンタは随分と身なりが良いようだが」


 不躾な視線を隠す事なくジロジロとメアリーを眺めながらロベルトが告げると、メアリーは頷いた。


「そうね、私の父はレイクロウ公爵。あなた達は知らないかも知れないけれど、国内では私より華美な格好を出来る者はとても限られるわ」


 そっと視線を動かして、メアリーも同様にロベルトとクロを観察する。


「とは言っても、あなた達も平民の中では裕福なのではないかしら」


 王都から離れた街の商人。その家ごと私物を勝手にコピーしただけなので、スラム育ちのロベルトには着用した服のレベルはわからなかった。それでも、貴族の娘のお眼鏡には叶ったようだ。


「今回の恩賞と、これからの事について話したいの。あなた達のお父様、もしくは雇い主を呼んでいただけるかしら?」


 救助の実行者である少年達が例え平民でも礼は欠かさない。しかし、大事な話をするのは別。メアリーは責任者を出せと要求した。


 ロベルトは、貴族の恩賞がどれ程の物がわからないがこれは良い展開だと心の中で笑んだ。

 雇い主をでっちあげる事も考えたが、横目に入り込むクロが能天気な顔でにこにこしているのを見て考えるのをやめた。信用も実績もないロベルト達が、嘘をつくにはリスクも大きすぎる。


「俺達に雇い主はいないし、親もいない」


「!!」


「さっき見ただろ? こいつが、さっきの不思議な力で勝手にやった」


「だって、女の子が縛られてるなんて絶対緊急事態じゃん」


「な、こいつ考えなしのお人好しなんだ」


 まさか、複数人の大人を相手にしたのが子どもの単独だとは。メアリーには思いもつかなかった。魔法と呼ぶその人知を超える力についても未だ理解は追いついていない。


「やっぱ家に帰りたいよね? 親も心配してるっしょ?」


 クロのその言葉は、自身の願いと直結していた。無意識に自身とメアリーを当て嵌めての言葉だった。


「そうね。けれど今帰るには危険が多過ぎるわ」


 しかし、その提案はやんわりと断られる。

 自身を攫った人物等に心当たりはないが、命令を下した人物にメアリーは心当たりがあった。


 王都で父の所属と敵対する、右思想の派閥。


 実行犯の男達はまだ捕まってないだろうし、無事帰れたとしても証拠が集まる可能性は低い。黒幕を(あば)く事はメアリーには難しく思えた。


 今回は運良く救いがあったものの、次こそ死ぬかもしれない。


 そう思った時、メアリーは身体に寒気が走った。


「今は帰れないわ。少しの間、この屋敷にお世話になりたいのだけれど」


 本来なら帰るべきなのだ。

 無事を伝え、情報を届ける。相手は政敵に暴力的な手段を取る迄に至ったのだから、今後より過激な手段に出る恐れがある。


 メアリーは()()()()()()()ではない。そのメアリーを狙う意味がどれ程大きいか、狙われた本人が一番理解していた。


「……どうかしら」


 しかし、メアリーはこうして身分違いの平民に命令ではなく、伺いを立てている。


 敵に弱みを見せないよう気丈に振る舞っていた彼女だが、体格の違う成人男性に攫われた事実は、その心に深く傷をつけた。


「俺はいいよ! ここ部屋いっぱい余ってるし! ロベルトもいいよね?」


 ロベルトは返答に悩むが、断る理由はない。

 店持ちの商人等の金持ちといずれ相対する事は視野に入れていたが、まさか貴族に恩を売る機会があるとも思っていなかった。なんと答えたら正解かも解らない。だとしたら答えは一つ。相手が少女でも恩を重ねる事だ。


「男二人の生活で不自由はさせると思うが、俺も構わない」


 男二人。その不自然な言葉にメアリーは疑問を覚えた。ふと窓の外を見ると、庭師が弄ったとは思えない程の青々とした立派な木が見える。


 不思議な力を持つ少年。親はいない。雇い主もいない。この屋敷に住むのは二人だけ。


 平民だからという理由はではなく、この不自然さにメアリーは違和感を感じた。


「ここは何処なの?」


「森の中だよ。えっと場所は……」


 そういってクロは脳内に地図を浮かべた。現在地を拡大すれば、地名が左上に浮かぶ。


「ウッドヴィレッジ領ってところみたい」


「ウッドヴィレッジ領!? 嘘でしょう!!」


 メアリーの記憶では、そこは王都から馬車で一ヶ月以上かかる辺境の街だ。


「私は一ヶ月以上寝ていたと言うの?」


 揶揄(からか)われていると思い皮肉げにメアリーが告げると、ロベルトはその誤解を察知した。


「おい、クロ。部屋の扉まで力で移動してくれ」


「へ?」


 突然脈絡もなく魔法を振られて、クロは部屋の中を指示通り移動する。


「見たか? こいつは、こうして不思議な力でアンタを攫った奴から助けてこの屋敷まで移動してきたんだ」


 目を見開きながら、メアリーは魔法で移動したクロと、その彼がさっきまでいた場所を見比べる。


「あなたは、不思議な力が使えて、王都からここまで一瞬で移動してきたというの?」


「そう! だから、家まで簡単に送っていけると思うし、姿を隠す魔法で襲ってくる奴から隠れて部屋まで帰れるよ! 俺、想像した事はなんでも出来るから」


「バカ! それ以上は言うな」


 魔法について初対面の、しかも貴族に喋りすぎるクロにロベルトは叱責を跳ばすが、その声はメアリーの意識に届かなかった。


「想像した事をなんでもできる……?」


 呟く様にメアリーは言う。漸く彼女の中で、クロの使う魔法という不思議な力の理解が追いついてきた。


「これは、あなたと出会えた私達の勝ち戦って事ね」


 そうして、不敵に彼女は笑う。


 身の危険に怯んだものの、レイクロウ公爵家は元を辿れば武力で成り上がった家系。クロの力を借りれば多少の傷など大した事などない。先祖の血が、メアリーに戦えと言った。


 この時、クロとロベルトは王家の戦いに巻き込まれる未来など、想像すらしていなかった。

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