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「完全に俺の落ち度だわ、ごめん」
その後、現れたクロは扉をしばし眺めたあとそう謝った。
虫かあ、虫なあ、そりゃ食えば栄養になるよなあ、そう言って頭をガシガシとかいている。
「作戦変更。アンタの妹マジでやばそうだからさ、一回燃やしちゃってトレントが消えた後に回復魔術ガンガンにかけようかなって思うんだけど」
そこで言葉を切ったクロは、ユリウスの目をじっと見つめる。
言葉はとても軽い物だったが、その目は真っ直ぐで戯けた様子は微塵もなかった。
「生きてて欲しいなら、このまま森に放つのも一つの選択だよ」
どうする?
その言葉は、死が近いのを意味していた。
ユリウスが一度目を閉じると、様々な感情や思考が頭の中を駆け巡る。
『リリィはもう頑張った』
『私がリリィを守らなければ』
『ここまで耐えたのにどうして』
『楽にしてやりたい』
『人の手で終わらせるのか』
『あの炎が全てを変えた』
『生きていればいいじゃないか』
しかし、ユリウスの心は最初から決まっていた。
「これは私の勝手な願いだ」
もう一度妹と、リリィと笑い合いたい。
「燃やしてくれ」
「いいね。人生ここ一番賭けてこそだ!」
そう笑ったクロは、リリィのいる部屋の扉を見つめる。
ダンッとクロが右脚を踏み鳴らした時、
扉のあった一面の壁が消えた。
ユリウスは声を上げる事もなくただ見つめる。
小柄なトレントと化したリリィを。
悲劇の終わりを見届けるために――――
「ギギギャガガガガガガガガガ!!!!」
トレントが咆哮をあげる。
クロが掌を構えると、
青い光の奔流が生まれた。
それは真っ直ぐにトレントに向かい、
『炎』となって、その身を焦がす。
一瞬で黒焦げになったトレントは、
既にトレントではなくなっていた。
瞬きをしては見逃すような速度で、
『炎』は白い光へと姿を変えリリィを包む。
黒焦げの身体は本来の姿を取り戻した。
リリィを包む光が消えた瞬間、
ユリウスは考えるより先に駆け出した。
その耳に、クロの小さな呟きが入り込む。
「ごめんな」
「裸見ちった」
その言葉が届く頃には、
ユリウスはリリィの身体を抱きしめていた。
長く苦しい時間は過ぎ去った――――
「ははっ、おめでと。アンタらの勝ちだよ」
そう言ったクロの姿は、もうそこにはなかった。




