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最強魔術師は無職です  作者: 十字たぬき
記憶の上映

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6

 




「つっかれた……帰りも歩くのとかツラ」


 クロが泣き言を言うのも仕方なかった。


 ロベルトに連れられクロは目的地である街の入り口近くまで来たものの、彼らの住居がある場所からここまで徒歩で一時間。整備されていない森の中を歩いてきたのだ。


 それに加えて、クロが着ていた学ランだと街で浮いてしまうため、アレンと服を交換してクロはここまで歩いてきた。足を守るためざっくりと足の形に切った木の板を入れただけの布の靴は、今まで履き慣れた靴とは比べようのない代物だ。


「そうだな。アンタの不思議な力で楽に帰る方法はないのか?」


 ロベルトが口元を隠して小声で言えば、クロの頭には無数にイメージが浮かび上がる。


 テレポーテーション、空を飛ぶ、身体強化、乗り物となる動物の召喚。


 本来は現実的ではない移動方法だが、今のクロはイメージした物を具現化・再現できる魔法が使えるのだ。


 帰りは楽だと思ったらクロは気分まで軽くなり、やっと目の前の光景に意識が向く。


 暫定異世界で、クロが初めて訪れる街。


 雨風に曝されて白っぽくなった木の塀。門番の立つ入り口。そこから見えるのは石畳の街並み。


「すげー。なんか映画みたい」


 高層ビルもマンションもなければ、アスファルトも瓦葺きの家もない。


 クロは、海外映画やゲーム画面でどこか観たことのあるような西洋風の街並みに目を奪われた。


「エイガ? ……まあ、いい。話を進めていいか?」


 クロは頷き、ロベルトの顔を見つめながら、そういえば彼も西洋的な顔立ちだと思った。


「今回、アンタには此処で二つの物を覚えて欲しい。たった二つだ。いけるだろ?」


 馬鹿にされているような口調に、クロは感情のままに声をあげようとして、ふと気づく。


「そう言えばお兄ちゃんだったな」


「……なんの話だ?」


「いや、こっちの話。続けて」


 子どもと追いかけっこをしていたロベルトが、普段から子どもの相手をしているならば、話し方に現れても仕方がない。そう思い直したクロは話を聞く態勢をとる。


「まず一つ、俺が指定した奴の服装を覚えてくれ」


「服? 人探しでもすんの?」


「違う。覚えた服をアンタの力で複製して、俺達が着るんだ」


 なるほど、とクロは思う。居住地に残してきたアレンを含め、あの場にいたものは粗末な服を着ていた。もっと正直に言えば、ボロボロの布切れを纏っているようなものだった。


「次に、俺が指定した家を覚えてくれ」


「それも、皆んなで住むから?」


「そうだ。わかったか?」


「まあ、余裕っしょ」


「じゃあ行くぞ」


 そう言って歩き出したロベルトの背を追おうとして、クロはその場に留まり声をかける。


「なあ! 門は向こうだろ?」


「こっちでいいんだ」


 正面に見える門へと向かわず迂回するように左手の方向へ歩き出したロベルト。クロは納得のいかない顔をしつつも、ロベルトの背を追いかけた。





「なんでこっちなの?」


「アンタ、こんな見すぼらしい格好の俺達が門から入れると思うのか?」


「入れないんだ?」


 驚いた顔のクロを見て、逆にロベルトは驚いた。


 どうやらクロは()()()()()()()らしい。


 そう認識を改めて、背後をついてくるクロへとロベルトは言葉を続ける。


「街の中に入るには金がいる。金を払ったとしても、怪しかったり汚いと門番に止められる。問題を起こされたくないからな」


「まあ、確かに。でもどうすんの?」


「抜け道を使う」


 そう言ったロベルトが足を止めたのは、門から暫く離れた場所にある木の塀の前。


 ロベルトは塀の一部分を軽く叩いた後、蹴り飛ばした。


 ロベルトが蹴った部分は、四角い板として外れる。先に空いた部分から街へ侵入したロベルトは、確認が終わると手招きでクロを呼んだ。


 しかし、クロは街の中へと一向に入ってこない。


 焦れてロベルトが塀の外にいるクロを確認すると、彼は手で口元を押さえて蹲っていた。


「どうした!?」


 ロベルトがクロの元へ駆け寄る。


 体調が悪いのか、まさか誰かに襲われたのか。


 ロベルトは辺りを探りつつ警戒態勢に入るが、どちらかと言えばクロは体調によるものだ。


「…………に、おいがっ」


 実は、塀に近づいた辺りからクロは悪臭を感じ取っていた。繁華街で雨が降った日に何処からか漂ってくる腐臭と、汲み取り式便所の悪臭を混ぜた様な臭い。


 既にロベルトの住居地で案内されたトイレがただの穴だったから、一応クロは覚悟していたのだ。


 それに加えて、クロと同居していない母方の祖父母の自宅トイレは未だ汲み取り式便所で、臭いに慣れているから大丈夫だろうと判断したクロは甘かった。


 塀が近くなる度に臭いは強くなり、ロベルトが空けた抜け道から吹いた風により、クロはえずいた。


 込み上げてくる吐き気と胃酸をどうにかしようとして蹲るが、鼻は粘膜を既に刺激された後で、口や鼻を今更押さえても時既に遅し。


「不思議な力でなんとかならないか!?」


 ロベルトの言葉に、口に溜まった唾液を吐き出しつつクロはイメージする。臭い・匂い・香りを感じない自分の身体を。


 恐る恐る浅い呼吸を数回繰り返したクロは、悪臭を感じなくなった事に安堵し深く息を吸った。


「はー、死ぬかと思った……」


「んな、大袈裟だろ」


 短く言い捨てたロベルトに言い返そうとしたが、クロは何も言わずにその場に倒れた。


 突然倒れたクロに驚いたロベルトだが、次の瞬間警戒態勢をとる。


 倒れたクロの背後に立つ者がいた。


「おいおい、ロベルト。誰が戻ってきていいって言った?」


 そう言ったのは、ロベルトの知る人物だった。


「畜生! 騒ぎすぎたか!」


 ロベルトが睨みつける相手は、この街のスラムの住人。その手には、血のついた角材のような棒切れが握られている。


 棒切れに付着した血はクロのものだ。

 背後から頭部を殴られ、クロは激痛と軽い脳震盪で倒れた。


 味わった事のない痛みに、クロは叫び声をあげる事すら出来なかった。揺れた脳が、治った筈の吐き気を呼び戻す。


「俺に献上するものはあるか? 物によっちゃあ見逃してもいい」


 ヘラヘラと笑いながら、スラムの男はクロの頭を容赦なく踏みつける。


 ロベルトは腰元に隠していたナイフに手を伸ばすが、男が持つ棒切れとリーチがあり過ぎる。

 同じ得物だったとしても、ロベルトの身長はあまりに小さい。大人であるスラムの男へ、喧嘩で勝ち目はなかった。


「仕方ねぇ」


 僅かにポケットの中にある銅貨。ロベルトはそれを握ってジャラリと音をたてた。

 これで足りるとも思わないが、クロと言う人質がいる以上何とか切り抜けようと策を考える。


 思考を巡らせロベルトが視線を揺らした時、


 ()()()()()()()()()()()()


「うぎゃああああああああああああ!!」


 絶叫しながら、男はその場に蹲り灼ける痛みにのたうち回る。


 身体が解放されたクロは上体を起こすと、男の恐慌する姿を見て、今度こそ吐いた。


「俺、戦闘系はやっぱ向かないみたい。めっちゃメンタルやられる……」


 そう呟いたクロは、静かになった男の頭部に残る火を消す。


 そのまま、鼻水と唾液でぐちゃぐちゃの顔を拭って、ゲームでお馴染みの回復魔法を思い浮かべる。


 まずは自身の身体へ。次に燃えた男の身体。ついでにと、森から歩いていた疲労感が溜まってるであろうロベルトへ。


 三人の身体が淡く光り収束すると、クロは痛みが消えた事に安堵した。


「コイツはそのままで良かっただろう? ……いや、不思議な力がバレると不味いか」


 意識の失った男へ警戒しながらロベルトは近寄る。


 背後から知らない人間に頭部を殴られるような世界。そこに住むロベルトがそう思ってしまうのも仕方ないとクロは思うが、それでもその言葉に傷ついた。

 それ程までに、クロは暴力と無縁の世界で育った。


 だからこそ、今一番不安な事がある。


「……そいつ、生きてる?」


 自分が、危ない世界と言えど殺人を犯してしまったかもしれない可能性にクロは怯えた。


「残念ながら生きてるよ」


 倒れる男の胸部が上下してるのを確認してロベルトは言った。


「…………そっか。ありがと。でもごめん、今日はもう無理。出直そう」


 安心と共に、身体的にも精神的にも疲労したクロは初めて使うテレポーテーションで住処の近くまで帰った。

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