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最強魔術師は無職です  作者: 十字たぬき
記憶の上映

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3




 避難訓練。

 地震大国の日本では、幼い頃から何度も参加するそれ。


 いざと言う時、備えがないと人は咄嗟に対処できない。心構え、対処法、全てを予備訓練してこそ発揮されるのだ。


 不慮により、木を盛大に燃やす者など滅多にいない。


 黒田も勿論、そんな想定をした事も訓練もした事もなく、ただ呆然とその場立つ事しかできなかった。


ここが日本なら自身の持つ携帯電話で通報、建物内なら非常ベルを押すなど黒田も何かを対処した筈だ。


しかし、ここは黒田が夢だと想定する森の中。


縁もゆかりもなく消火する義理もなければ、ここから離れた所で行くあてもない。その事が、黒田の思考を停滞させる原因となった。


「この距離ならこっちに火が飛んでくる事はないと思うけど……え? 俺どうすべき? まじでわからん」


 相変わらずの独り言を放つ黒田の耳に、突如、人の声のような物が聞こえた。


 黒田は辺りを見回すが、人影は見えない。しかし、近づいてくるようで、その声はどんどん大きくなる。


 土に転がる枝を踏み締める音と共に、複数人の男達が黒田の背後から現れた。身長的に黒田と同じかそれより低い。皆子どものようだ。


「第一村人発見!!」


 夢に来てからずっと一人だった黒田。この場で初めての人類との邂逅に喜び、テンション高く声を上げるが見事にスルーされる。


 そのうちの一人、長い茶髪をくくった男が周りへ声を荒げながら指示を出すと、指示をされた男達は燃えている木の周りに散った。その手には、斧や鉈が握られている。


 指示を飛ばし終えた茶髪の男が辺りをぐるっと、確認のように見回すと、その視界に黒田が映った。


「▪️▪️▪️▪️▪️▪️!!」


「え! 外国人!?」


 話しかられたと喜ぶ言葉だが、その言語は日本語ではない。顔立ちだって日本人とは違う。


「英語の評価一でも、コミュ力の塊な俺を甘く見るんじゃねえぞ……! こういうのは気合いだ! 心で会話するんだ!」


 一瞬怯んだ黒田だったが、謎の持論で精神を立て直し、その目に再度熱を点す。


「ぷりーず、すろーりぃ! すろーりぃー!」


「…………何言ってんだアンタ?」


「あれ!? 日本語わかるの!?」


 先程、言葉が通じなかった茶髪の男が普通に返事をし黒田は驚くが、同時に安心もした。


「よくわかんねぇが、今は火事だ。アンタも手伝ってくれ」


「なになに、どういうこと?」


「このまま燃え広がると俺達が住んでる所まで燃え広がっちまう。その前に周りの木を倒す」


 黒田が木々の周りに散った男達を再度見れば、手に持った斧で必死に木々を薙ぎ倒そうと奮闘しているのがわかった。


「……やべぇ、俺のせいじゃん」


「何か言ったか?」


「なんでもない! 手伝ってくるわ」


 そう言って、放火犯・黒田は駆け出した。手頃なグループを見つけて声を掛ける。


「俺も手伝う!」


「頼む。疲れたら代わる」


 斧を手渡された黒田は、少し抉れた部分を見つけると他の男達と同じように斧を振るう。抉れた部分を見るに、上下から切り込みを入れ最後に木を倒すようだ。


「つらっ! 既に手痛いし!」


 着ていた学ランのジャケットを脱ぎ捨て、斧を振るう黒田。周りにいる男達は身長から見ても顔立ちから見ても、黒田よりも幼かった。


「お兄さんが頑張らなきゃな! 元はと言えば俺のせいだし!」


 黒田は無意味に声を上げながら斧を必死に振るうが、初めての作業と慣れない動き。既に息は上がっている。


「てか間に合うの? 火が近くなってる気がするんだけど……」


 黒田の身体には先程よりも強い外部からの熱を感じ、同じ作業をする男達も然程進んでいるように見えなかった。


「交代する」


「あ、ごめん」


 声を掛けられて黒田が斧を手渡した時、斧も人も足りていない事に気づいた。


「消防車呼べれば大した火事じゃない筈なのに」


 先程の茶髪の男の言葉からすると、この近くに彼らの住居がある。


「放置して逃げられる状況じゃないんだろうな。せめて俺が火属性じゃなくて、水属性ならこんなの一発なんだろうけど」


 黒田は火を見つめる。同時に、何かいい方法はないかと探すが何も思いつかない。


「雨が降ってくれたらなぁ、こないだみたいな奴」


 言いながら、黒田が思い出すのは先日台風が上陸した日の事。交通機関が止まる前にと学校側は二時限で授業を終了し帰宅指示を出した。

 徒歩通学の黒田が、家が近くてラッキーだと喜んだのも束の間、強風に煽られ傘は壊れ、大粒の雨で靴の中までびしょ濡れになりながら帰宅した。


「かなり気持ち悪かったけど」


 濡れた服が肌に張りつく感覚と、歩く度ぐちょぐちょ音を立てる靴、顔に当たる雨粒が思いの外痛かった事を思い出し、黒田はげんなりとした表情を浮かべた。


「あの日も朝はこんな風に晴れてたんだよな」


 黒田が呟きながら空を見上げると、


 異変が起きた。


 黒田の頬に、大粒の雫が一つ落ちてきたのだ。


「まさか……!?」


 声を上げた時には、それは既に事象となり、大粒の雨が降る。


「やった! 雨だ!」

「よかった!」

「助かったぞ!」


 口々に燃える木々の周囲で斧を振るっていた男達が歓びの声をあげる。


 一同が歓びに浸る中、少し外れた所で茶髪の男が一人、冷静な眼差しで黒田を見つめていた。


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