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最強魔術師は無職です  作者: 十字たぬき
記憶の上映

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 魔術式が縫い込まれたクロス。

 複雑な魔術式が書き込まれたスクロール。

 小さなガラス瓶に入った黒い何か。


 メリーはそれらを丁寧に並べていく。


「お姉ちゃん、これは何?」


 リリィが大きな目を輝かせながら問うと、メリーは手で静止した。


「触っちゃだめだよ? それは大事な物なの」


 言いながら、繊細な手つきでメリーは瓶をひとつ手に取る。そのまま、両手に包んだ瓶を大事そうに見つめた。


 その光景をユリウスは苦い顔をして見つめる。

 ()()()()を知っているからだ。


「これはね、私の大事な人の身体の一部なの」


 まるで遺品のようにメリーは呟くが、手に持った瓶にみっちり詰まっているのは()()()()()だ。


「それも魔術に必要なの?」


「うん、必要だし、すごく大事なの。前から研究していた甲斐があったよ」






 現在メリーは、大都市イーストプールの裏を取り仕切るディニータ・ファミリーのボス、ユリウスの別邸に来ていた。

 扉の外にユリウスの側近が立つが、部屋の中にいるのはメリーとユリウス、ユリウスの妹のリリィだけだ。


 メリーが死亡して、蘇った日。

 その言葉だけならば、世界が違えば巨大な宗教の始祖と同じ奇跡的な出来事。


 しかし、メリーにとっては違う。その日はクロが姿を消した日なのだ。


 理屈なしに、()でクロの居場所を突き止める事の出来る唯一の人物であるレオ。クロと旧知でもあるレオにメリーは連絡を取ったが、レオはクロの居場所がわからなかった。


『こんな事は初めてだ。初心を取り戻す為、僕は旅に出る』


 メリーにそう告げたレオは、仕事も何もかも放り出して何処からか連れてきた白い牡馬と旅立った。


 クロの居場所がわからない事がわかったメリーは、当初の思いつき通りクロの記憶を覗く行為の準備を始めた。


「それで、何故私のところに来た?」


 いきなりアポイントを取ってきたメリーに、会ってすぐさまユリウスはそう告げた。


「場所を貸してほしの。それと、万が一私が魔術で帰ってこれない時に対処して欲しいの」


「だから、何故私が?」


 苛立ちを隠さずメリーが告げると、メリーは怪しげな笑みを浮かべる。


「クロ様の居場所を知っといた方がいいのはあなたじゃない? リリィちゃんに、呪術の残滓がないなんて何故思えるの?」


「貴様! 何故その事を!?」


「魔術式者をなめないことね。私は自分の事を最上の魔術式者だと自負しているけど、呪術に対しては弱いの。もしもの時に、クロ様を必要とするのはあなたも同じなんだよ」


 尤もっぽくメリーは言うが、全て口から出まかせだ。ユリウスとリリィがかかった呪術について知ってるのは、クロへのストーキング行為の中で得た情報であるし、呪術に至ってはクロが解決したから問題ないとメリーは思っている。


 大事な妹を持ち出して交渉するメリーはマフィアよりもマフィアらしい。


「……私に何をしろと言うのだ? そもそも何をするつもりだ?」


「最初に言った通り、場所を貸してほしの。静かな場所じゃないと上手く魔術が発動しない可能性があるから」


 メリーが下宿する酒場メロウ・ツリーは下町の古い建物だ。一階は、毎夜酔っ払い達が騒ぐ場所であるから静かさとは程遠い。


「人の過去が覗ける魔術式が刻まれた道具があるの。それを使って、クロ様の過去を覗くわ。クロ様がいなくなるような原因や居場所のヒントがある筈」


 以前、占い師として働く女からクロが回収した魔術式が刺繍されたクロス。ストーキング行為で、その存在の事もメリーは知っていたし、クロが消えてから部屋の中をメリーは即座に物色した。勿論、彼女にとって収穫はそれだけではなかったようだ。


「有り得ないような事だが、君達には可能なのだろう」


 ユリウスは、常識外なクロの友人メリーも常識外だと認識した。


「場所を提供したとして、周りに被害が出る事はあるのか?」


 本来、ユリウスや他の一般人が知る魔術道具で問題が起こる事などない。人間一人で使える魔術なんて、明かりを灯したりトイレの水を流す程度の物だ。

 しかし、メリーをクロと同列視したユリウスは、人の想像を越えた魔術を使って周囲に被害を出す可能性も視野に入れた。


「私が魔術の中に意識を入れるだけだから、被害が出るとしたら私にだけ。心配なら、いくつか部屋や人を守るためのスクロールを私が提供したっていい。ただ、私が戻ってこられなかったら誰かに起こして欲しいの」


 それを聞いて、しばしユリウスは考え込む。


 ひとつ、彼に心当たりはあるのだ。未だ体力回復の為、療養している妹のリリィが住む別邸。


 療養のために用意した屋敷であるから静かな事は確かで、リリィが現在屋敷から出る事も少ない。万が一メリーに対処できる人間としては適している。メリーが女性であるから、リリィ個人に対しての危険も少ないようにユリウスは思った。


「わかった。話を詳しく聞かせてくれ」


 リリーの安全性を確かにするためユリウスが問うと、メリーは魔術式の道具から工程まで説明し始める。


 本来、対人に対して使う魔術道具を今回使用する事。クロが行方不明な以上、本来の使用が出来ないため補助のスクロールを用意する事。人の身体の一部でも、その持ち主の人間の情報が詰まっている事を題材にした研究をメリーがずっと行ってきた事。


「待て、身体の一部など無理ではないか」


「大丈夫、これがあるから」


 そう言って嬉しそうにメリーは懐からガラスの小瓶を取り出す。中には黒い物が詰まっていた。


「それは何だ?」


「クロ様の髪の毛」


 ユリウスは背筋がゾッとするのを感じた。薄々感じていたが、当たり前に他人の毛髪を集めるメリーに対し、クロとはまた違う人格の破綻を見た。


「……それは、まあ、いいとして」


 ユリウスは軽く咳払いをすると、真面目な顔に切り替える。


「要求を飲もう。代わりに、魔術式者というのであればいくつかスクロールを融通しろ」


「わかった。オーダーでもいいよ」


 マフィアというより最早商人に近いユリウスだが、高額なスクロールが複数入手出来る事、普段納期が長いオーダーのスクロールが約束されたのは嬉しい誤算だった。


 こうして、メリーが記憶をクロを覗く準備が整い冒頭に至る。






「じゃあ、始めるね。リリィちゃん、私が起きてこないようならよろしくね」


「わかった! 任せて!」


 メリーは、リリィとユリウスへそれぞれ笑顔で頷くと用意された一人がけのソファへ座り、目の前に向き直る。


 メリーが自分で用意したスクロールに右手を載せて魔力を込めれば、それは淡く光を放った。そこへ瓶の中身を出すと、光が纏わりつき魔術陣の中へと消えていく。


 それを確認してメリーは一つ頷くと、空いた左手をクロスへ載せて魔力を注ぐ。


「行ってきます」


 その呟きを最後に、メリーの意識は深く潜っていった。

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