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最強魔術師は無職です  作者: 十字たぬき
占い師

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4

 



「……で、結局その娘は鍋二杯分平らげたのかい?」


 老人の朝は早い。酒場メロウツリーの店主であるカミラも例外ではない。


 カミラが夜明けと共に水を飲もうと一階に降りると、厨房から何やら物音が聞こえた。

 よくよく聞いてみれば、カミラには馴染みのある食器がぶつかる音。クロとメリーが食器を片付けていたのだ。


 話を聞いてみれば、腹を空かせた娘を満足させてやろうとして、気づいたら相当な量の食材を使ってしまったとクロとメリーは白状した。


「ばあちゃんごめん! 店が開いたら使った分は買ってくるから」


「それはいい。店が変わると味も変わる。良くなっても悪くなっても面倒だ」


「じゃあ、使った分の金は払う」


「アタシらが食べる肉も欲しいね」


 カミラは歳を重ねている分穏やかではあるが、それに比例するように抜け目がない。


「わかった。他にも何かあったら買ってくれ」


「おや? 随分と懐が暖かいようだね?」


「とあるシスコンが随分と報酬を弾んでくれたからな」


「じゃあ、遠慮はいらないね」


 ニヤリと笑ったカミラを見て、話は終わったとクロとメリーが部屋に戻ろうとした時、その背中に声がかかった。


「クロ、あんまり面倒を抱え込むんじゃないよ。一人で抱えられる人数には限度があるし、堕ちる人間は生者に必死でしがみつく。引きずられる前に、割り切る度胸も必要だ」


 その言葉にハッとした表情を浮かべたのは、クロではなくメリーだった。


 メリーはクロから救われた過去がある。恩と愛を混同してない自信はあったが、好意を寄せることがクロの負担になっているか一番気にしているのはメリー本人でもあった。


「頭ではわかってんだけどなぁ。目の前で誰かが溺れてたら後先考えず飛び出しちゃうのが俺だから」


 そう言ってクロは苦笑を浮かべた。


 しかし、そこに暗さは無い。


「でもさ、ここだけの話。俺は、そんな俺の事が嫌いじゃないんだよね」


 その言葉を聞いて、メリーはどこか救われたような気がして顔を上げた。


 そんなメリーの心情を知ってか知らずか、カミラは二人の顔を一瞥した後、やれやれと言ったように小さく首を振った。


「全くしょうがない奴だね。時には人を頼りなさい。それを忘れない事」


 その言葉を最後に、カミラは席を立った。


「そうだよな。さて、この件は誰を頼り(みちずれ)にするべきか」


 クロがそう呟いた時、イーストプールの片隅で誰かが盛大にくしゃみをした。











「ほう。それで何故私の所に来たのか全くわからないな」


 クロの話を聞き終えてから、そう言い放ったのはこの街の顔。ディニータ・ファミリーのボスであるユリウスだ。


 そこはかとなく草の独特な匂いを漂わせているのは、盛大なくしゃみをしたことで、心配した部下から薬湯を飲まされた所為だった。


「フィオナに食わせた飯代は、元を辿ればアンタのだから」


「それは君に支払った正当な報酬だから、既に君の物だ。私には関係ない」


「……その他にもさ、フィオナの上司辿ってくと最後に行き着くのはアンタだろ?」


 クロの言う通り、女や賭博の金が回った先にいるのはマフィアだ。


 イーストプールは街の規模が大きい為、ディニータ・ファミリー以外にも小規模のマフィアやチンピラ集団も多数存在する。しかし、それらは全てディニータ・ファミリーの傘下、もしくは下請け状態なのが実情だ。


 言葉の通り、『イーストプールの裏を取り仕切る』のはディニータ・ファミリーで間違いないし、末端から辿っても行き着く先はディニータ・ファミリーだった。


「そこまで分かっていて、何故私を尋ねるのか理解に苦しむ。その娘も在籍する店舗も私は知らない。分かるだろう? トップである私がわざわざ現場に足を運ばない事など」


 ユリウスが、温度のない表情で言い放つ。


「その娼婦が君の女だと言うならば、身請けに関して融通する事は出来る。恩人の君に私が出来るのはそこまでだ」


 クロが恩人でなければ、ユリウスは話を聞くどころか、この場すらなかった。


「ごめん、俺の言い方が悪かった。俺、年上の知り合いも少ないし、マフィアとかの知り合いもいないからさ。なんていうか相談? アンタならどうする的な、そんな軽い感じで来たんだけど」


 その言葉にユリウスは驚いた。

 大都市のマフィアのボスに、そんなくだらない相談を持ち掛ける者がいるのか。


 そういえば、コイツは規格外だった。()()()()も。


 そう思い出し、軽くユリウスは笑みを浮かべる。


 ユリウスは、ここでやっとクロが何か要求しにきた訳ではなく、酒の場と同じようにくだらない話をしにきたとだと理解した。


「私ならば身請けする。その後、その女に金を渡せばいい話だ」


「俺は別にフィオナの事は好きじゃないし、身請けするつもりもなくて。ただフィオナが客を取れる方法とかあればいいなぁって。マジで娼婦らしくない娼婦なんだよ。でもスゲェ真面目だから、そう言うのが好きな人はいるはずじゃん」


「何故好きでもない女の面倒を見ようとするのか私には理解出来ない。客が増える方法があるのならば、こちらに提案してくれる分には構わないのだがな」


「なんだろ? あっち界隈の客の好みを把握して、上手く紹介できるようにするとか? いっそ、そういう紹介専門の店作るとか!」


「無数にある店舗で客の好みを把握すると言うのか? その店員の教育と、情報を扱い取り纏める人材、それに掛かる金額はどうする?」


 新しい事を始めるには元手となる資金は必要だ。勿論、成功するかわからない事業にユリウスが金を出すつもりはない。


「紹介専門店に関して一考の余地はあるが、話を詰めていく間のその女の保証はできない」


「そうだよなぁ。……てかさ、正直な所、イーストプールでは客のつかない娼婦ってどうなる?」


「その娼婦が売られてきたのであれば、金にならない者は他の仕事で回収させるしかない。そうでないならば、普通にクビだろう。あの仕事は、商品にかける出費も多い」


「なんか使い捨てるような感じじゃなくて安心したような。余計難しくなったような」


 人間、生活水準を下げる事は中々難しい。フィオナが転職したとして、同じように仕送りをしたければ自分の食費を削るしかない。もしくは仕送りを辞めるか。

 どちらに転んでも、フィオナの心に大ダメージを与えるだろうし、今の仕事で上手くいくならば全て解決するとクロは思っている。


「それにしても、何故君は好きでもない女にそこまでする?」


「なんかそんな話、さっきもしたわ」


 そう言いながら、クロの頭に自身の祖母の言葉が蘇る。


『袖振り合うも多生の縁って言ってね、どんなちょっとした出会いも偶然なんかないんだと思って、これから出会う全ての人に優しくなさい』


「俺のばあちゃんが誰にでも親切で誰にでもお節介だったからかな? それ見て育った所為で、なんか頼られたり困ってるの見るとほっとけないんだと思う」


「難儀な性格だな」


「まあ、これでもそこそこ楽しく暮らしてるよ。それよかフィオナだよ。アイツもゴブリン姫みたいに皆から好かれる性格してればなぁ」


「……ゴブリン姫?」


 不可思議な単語に反応したユリウスが聞き返せば、何かを思いついたクロが急に立ち上がった。


「そうか! イベント開けばいいんだ! 知名度上がるだろ!?」


 身内だらけの小さい規模とは言え、アイドルイベントを成功させたゴブリンの集落。

 同じように、フィオナがステージに立てば知名度は上がる。素性を公開すれば、フィオナの性格を少しでも知った上で新規の客を呼び込める可能性があった。


「なんだ? 一体、君の頭の中で何が起こった」


「大食いイベント? 早食いイベント? とにかく、飲食店巻き込めばかなりの祭りになる。上手くやれば、アンタ達も儲かるんじゃないか?」


「ほう。詳しく話を聞かせてくれ」


 こうして、『フィオナの様子見』が『大食いイベント開催企画』へと壮大な変化を遂げた。

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