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最強魔術師は無職です  作者: 十字たぬき
占い師

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「精一杯頑張りますので、本日はよろしくお願いいたします!」


 部屋の入り口で元気に挨拶をする女。

 この辺りでは珍しく低身長で幼い顔をしているが、たわわに実る豊満な胸と肉感的だが思春期のそれとは違う身体付きが、女が成人している事を示していた。


「……ああ、うん。まず座れよ」


 どこに元気ハツラツな挨拶をする娼婦がいるのか。否、ここにいたわ。

 心の中で一人ノリツッコミするクロが、まず落ち着けと席を勧めた。


「はい! 失礼します!」


 そう言って、女は迷うこと無くクロの膝の上へ跨った。


「いや! ちげえし!」


「ええ! だってこうされると嬉しいですよね!?」


「間違ってない! 間違ってないけど、今は向かいのソファに座ってくれ!!」


 不思議そうな顔をしながらクロの膝から降りた女は、勧められたソファを前にして、ぱあっと明るく納得した表情をした。


「……頼むから普通に座ってくれ」


「ええ! こういうのが好きなんじゃないんですか!?」


 M字開脚で、ドレスをたくし上げて下着を露出させた女が困ったように声を上げた。

 しぶしぶとソファから降りて普通に座り直すのを見て、クロは気を取り直すように咳払いをした。


「俺はクロ。アンタ名前は?」


「ああ! 申し遅れました!」


 そういって女は、胸の谷間から名刺のような物を取り出し、両手で丁寧にクロへと渡した。渡した後、艶めかしく指を絡めるのも忘れない。クロはその指使いをスルーして名刺に目を落とす。


「珍しいな。フィオナが考えたのか?」


 この国には名刺という文化がない。

 フィオナという名前と、『今日この日あなたと出会えた事が嬉しい』と短い文が書かれた小さいカードは、記憶に残るという意味ではこの仕事でポイントが高いだろうとクロは思った。おっぱいの匂いがするかもしれないという思いについては、心の奥底にそっとしまった。


「はい! この街は紙もインクも手を出せる値段ですし! その紙はタダで貰った端っこの部分なんですけど、捨てるには勿体ない程いいものでしょう?」


『勿体ない事をすると勿体ないオバケがでるぞー』

 そう言って同居する祖母に育てられたクロだが、そのクロが驚く程にこの国の平民は基本的に物を捨てない。


 野菜は葉から根まで食べられる部分は全て使うし、消耗品以外は全て下げ渡す。娼館で使われた紙も、本来裏紙として再利用するはずだ。裏紙としてすら役目を終えた紙に利用価値を見つけるとは流石だとクロは唸った。


「へえ。凄いな」


「それよりも、少し明るくないですか? それとも明るいのが好きですか?」


 どうにか雰囲気を持っていこうとするフィオナに、クロは慌てて説明する。


「俺は今日アンタと寝ない。話をしに来たんだ」


 その言葉に、フィオナが顔を真っ青にさせた。


「そ、そう言わず! なんでもしますから! どうかお好み教えてくだい! 頑張りますから!」


 先程の女がいった通り、フィオナの性格は真面目だ。閨を共にする仕事に全力で打ち込む。しかし、猪突猛進で空回る性格である事も薄々クロは気づいていた。


「前金で払ってあるから安心していい。本当に俺は、最初から話だけするつもりでここに来た。アンタが魅力的かどうかは関係ないんだ」


 クロは、出来るだけ優しく聞こえるようにゆっくりと話す。そのお陰かフィオナの顔色が少し戻り、クロは安堵の息を吐いた。


「なんか、酒場とか飯屋の看板娘とか向いてそうだよな」


 話題を変えるつもりで吐いたその言葉に、フィオナは曖昧に笑う。


 酒場で雇われても、今程の収入は望めない。娼婦の仕事に真面目に取り組む事とは別で、なろうと思ってなる者がほぼいない職業なのだ。借金のカタだったり、生活が苦しくて、そんな理由で家族から売り出される娘も多い。


 フィオナも金が必要な理由があるのだ。


 それに気づいたクロは、聞いていいものか一瞬戸惑う。だが、聞かれて困るようなら娼婦なんて辞めちまえとも思った。


 生活に困窮して売られたところで、本人にやる気がなければ続けられない。客が取れないからだ。

 本人がこうして続けていて、家族に売られた事実を無かった事にしたいような性格なら、きっとこの先続けても心が壊れる未来しかない。


「金が必要なんだよな? どうしてだ?」


「故郷の家族に、お腹いっぱいご飯を食べさせたいんです」


 投げかけられた質問に、予想していなかったと目をぱちくりさせたフィオナだったが、その返答はしっかりしたものだった。


「元々貧相な土地の農家で実りは少ないし、家族も多いから私が食べられる分が少ないのが嫌になってこっちに出てきたんですけど」


 まるで今さっきあった愚痴のように語るフィオナ。


「……お腹いっぱいになったら思い出しちゃったんですよね、家族の顔を」


 しかし、家族と言った瞬間に穏やかになったその顔をクロは見た。


「こっちには美味しいものが溢れてるから、本当はご飯を送ってあげたいけど途中で腐っちゃうんで残念です」


 クロならば、魔術でフィオナの実家へ美味しいままのイーストプール料理を届けることは容易い。


 しかし、クロはそれを告げない。


 利益で人が変わる事も、自分の手の届く範囲が広くとも、手を広げ過ぎると心が追いつかなくなる事をクロは自覚していた。


「ぐううううううう」


 食べ物の話に釣られてか、フィオナの腹が盛大に鳴る。恥ずかしいというよりも、失態だというように腹を抑えるフィオナを見てクロは小さく笑った。


 家族は無理でも、せめてフィオナには。


 そう思い、クロは閉店後のメロウツリーへとフィオナと共に転移した。

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