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おそらく威嚇なのであろう。ジャムが木の枝の上で一つ目が後ろ脚を精一杯伸ばし、前足を低く折っている。
未だ姿が一つ目しか見えないラルムがその姿を威嚇と判断したのは、翼の大きな怪鳥が低空飛行してジャム目掛けて飛んでいくからだ。
枝や葉が邪魔をして、怪鳥が上手くジャムへ狙いをつけられないようだがそれも時間の問題だ。
その翼の全長はラルムの身長程もある。体重をスピードに載せて、怪鳥がジャムを目掛けて飛んでいく度に、ぶつかった枝がバキバキと音を立てて落ちた。ジャムが登っていられる枝がどんどん減っていく。
「ジャム! おいで!」
勝手口を開けたままラルムが声をかける。
「ギャアッ!!」
一瞬ラルムの方に目を向けたジャムだったが、バサバサと滞空する怪鳥が大きく鳴くと、その場に留まった。
ラルムが咄嗟に周りを見回すが、何も武器になるようなものはない。
箒の入った道具小屋が目に入り、身を低くしてそちらへ駆け出す。
ラルムが襲われることはなかった。
怪鳥はジャムに狙いを定めているようだ。
ラルムが小屋に手をかけ扉を開けると、背後で大きな音がした。
ジャムが乗っていた枝がとうとう落とされたようだ。
ジャムが枝の影で体勢を崩している。
狙い目だとばかりに怪鳥が襲いかかった。
爪が浅く引っかかったのか、ジャムの身体から血が吹き出す。
「うちの子に何するんだー!!」
ラルムが駆け寄り怪鳥を箒でめちゃくちゃに叩く。
その瞬間、呆気なく箒は折れた。
折れた箒を刺そうとラルムは突き出すが、怪鳥はそれを避ける。
今だ、とラルムはジャムを抱えて駆け出す。
開けたままの勝手口まで距離は近い。
ラルムが三歩目を踏み出した時、逃がすかと怪鳥が鋭い爪で背中を抉った。
「うアッ!!」
痛みでその場に転がるラルム。
だが、ジャムは腕の中にしっかりと抱きとめている。
「大丈夫だよ、僕が守るから」
地面に蹲りうずくまり、ジャムを守るようにして身体を丸めるラルムに第二の攻撃が襲う。
ラルムは痛みに呻く。意識が飛びそうな程の痛みだった。
その時、屋敷の方から人の声がした。
銃さえあればあんな鳥追い払える。今を耐えればこの子は助かる。
そう思うラルムは、自分の事など頭にない。
三度目の攻撃を怪鳥が仕掛けた時、ラルムは異変を感じた。
腕の中のジャムがグングンと大きくなっていく。
あっという間に屋敷程の大きさになると、その脚で怪鳥を叩き落とした。
そのまま踏み潰しとどめを刺す。
「ははっ、ジャム、強いじゃないか」
ジャムの頭の上でそれを見たラルムは安心し、そのまま意識を失った。
ラルムが目を開けると、自室の天井が視界に入った。
肩の辺りが暖かい気がして首を捻ると、ふわふわとした身体が目に入る。
「……もしかして、ジャムなのかい?」
身体を起こそうとして、ラルムの背中に痛みが走った。
「痛たたたたたたっ!」
ラルムが起きた事に気づいたのか、ジャムは身体を起こして、一度背を向けたまま大きく伸びをする。
ラルムの瞳に映るのは、三角の耳を持ちふわふわの毛に覆われた紛れもない猫だ。
くるりと回転したジャムの顔は、猫らしくない少し突き出た鼻と一つ目の特徴的な顔だった。
「まだ少し心を許してないんだね!!」
一つ目の姿を頑なにラルムへ見せ続けるジャム。
思わずツッコミを入れたラルムが、また背中の痛みに呻いた。
その様子を見たジャムが、ラルムの頬をザラザラした舌で舐めた。
「ありがとう、ありがとう、でも痛いよ」
そう言いながらラルムは笑う。
「僕はね、お祖母様から猫の童話を聞いた時に、猫が可哀想だと思ったけれど、実は男の方も可哀想だと思ったんだ。誰かから本当に愛される事を知らなかったから、多分他の誰かの愛し方も知らなかったと思ったんだよ」
ジャムの頭を撫でようとして、背中が痛みラルムは諦めた。
「僕は愛されて育ってよかった。君を愛する事が出来たんだから。無事でよかった」
そう言って、再びラルムは目を閉じた。ジャムはその肩に寄り添って丸まった。
七章完結です。
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