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月明かりの差す、暗く深い森の中。
松明に囲まれた低い櫓の上で、発光する花のドレスを着たゴブリンが歌って踊っている。
「ギャーギャギャー♪」
櫓の周りでは、発光する花を振り回しながら蠢くゴブリンの集団が声を合わせて叫んでいた。
「「ゴッ! ゴッ! ゴーーーーギャッ!!」」
「「ゴッ! ゴッ! ゴーーーーギャッ!!」」
「「ゴッ! ゴッ! ゴーーーーギャッ!!」」
レオはその光景に驚きながらも、ゴブリンの集団の中から目当ての人物を見つける。
「やあ、クロ。これは中々珍しい光景だね」
「グギャッ!! 邪魔すんじゃねえ!! ……って、レオか」
声を掛けられたクロは、集団から離れると自慢げに語り出した。
「俺が育てたんだよ」
自分の知らない事や、日常と掛け離れた事はレオの大好物だ。
レオは急ぎの用があってここへやって来たのだが、光るゴブリンを得意気に顎で指すクロの話を聞きたい気持ちが膨れ上がり、口をもご付かせた。
「まあ、なんかあったんだろ? どうした?」
しかし、そう催促されれば、今度しっかり聞こうと目の前の出来事は後回しにして、今回クロの元を訪ねた用件をレオ語り出す。
「君は、一つ目の魔物を知っているか?」
「……デビルアイが出たのか」
そう言ってクロは苦い顔をした。
「デビルアイと言うのか?」
「いや、俺がそう呼んでるだけ」
そもそも、この世界に悪魔の概念は存在しない。
「で、どこにでた?」
「ラルム殿の屋敷に一匹いるらしい。双子の妹の幻影を作り出した娘がいたところだ」
「あのおっさん厄年か? デビルアイが出るなんて可哀想に」
「そんな厄介な魔物なのか?」
「アイツら弱いけど増殖するんだよ。全部殲滅しないとどんどん増えてく」
あと、目玉触るとぬるっとして気持ちが悪い。
そう言ったクロは、感触を思い出したのか掌をブンブンと振った。
「確かに厄介だが、弱いならば僕が一人で行っても問題はないんだな?」
謎があればクロを巻き込んで非日常を楽しみたいレオであるが、答えがわかってしまえば興味は薄れる。
レオは、さっさと解決してしまおうとこの場を締める言葉を口にするが、それに対してクロは手を出して待ったをかけた。
「一匹しか見つかってないんだろ? そもそも単体で見つける方がおかしい。しかもあんな田舎に。他に情報はないか?」
「ラルム殿以外の者には、恐らく擬態した姿を見せているそうだ。娘や使用人がかわいがってると書いてあった」
言いながらレオが広げた手紙には、デビルアイと思わしきモンスターの図が載っていた。
「これはデビルアイじゃねぇな。そもそもデビルアイは魔術を使わない」
クロが知るデビルアイには羽根があるが、手紙の図のデビルアイには羽根がない上に、蜘蛛のような脚がついていた。
「俺の魔力を感じ取るような奴ならかなりヤバいけど、見てみない事にはどうしようもないもんな」
そう言うとクロは手を叩いた。そこから光を放つと、淡く光る四角い半透明の板が現れた。
「ラルム……ラルムラルム……いた」
目を閉じてクロが呟くと、板にラルムの顔が映る。板の中のラルムは、ただでさえ薄い頭をいつもに増してとっちらかして、憔悴した顔をしていた。
「いつ見ても便利だが、ラルム殿がこの様子ならば急いだ方がよさそうだ」
レオは緊張した声音で言いながら、その板をじっと見つめた。
クロの意識に合わせて、板の中の光景は屋敷の中を動き、目当ての魔物を探す。
「いた!」
「これは…! どういう事だ!?」
「勿論デビルアイじゃねぇ……けどなんだこれは?」
二人は、板に映る、使用人から餌付けされている魔物を困惑した表情で見つめる。
「害はなさそうに見えるが?」
「それ自体が、油断させるための擬態かもしれねぇし。取り敢えず向かってみるか」
盛り上がりがピークに達し、アンコールの声が聞こえる楽しそうなライブ会場を一度名残惜しそうに二人は振り返った後、一瞬の光と共にその場から消えた。




