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「クロさまあーーー!?」
「クロ殿ーーーーー!?」
とある研究施設を備えた屋敷で、メリーとその師匠は駆け回っていた。
「なあ、あれ何してんの?」
「さあ? 人探してるのはわかるけど」
「クロって誰だよ」
廊下を歩く師弟達はドタドタと駆け回る二人に道を譲るが、皆頭に疑問を抱えている。
「師匠! 私庭調べるんで、続けて屋敷の中お願いします!」
「わかった! ここは任せた!」
年齢を感じさせない速度で駆けて行く師匠を見送ると、メリーは生垣の方へ歩いていく。
「みーつけたっ」
「…………」
返事はない。ただの生垣のようだ。
「ここかな?」
メリーが宙に手を伸ばせば、何かに当たった。
ゆっくりと景色が変わり、そこにクロが現れた。
「どうやってわかった」
そう言ったクロはかなり不機嫌だ。
「よくぞ聞いてくれました! 見てみて! 魔力の波長で居場所を調べる魔術式を作ったの!」
そういって、メリーはローブのポケットからスクロールを出して広げた。
「ふうん、よく出来てる……じゃなくて。どうやって俺を特定したか聞いてんだけど?」
「それはね、身体の一部にも魔力の波長の情報が残ってる事に気づいたの」
「つまりは?」
「クロ様の爪を拝借しましたっ」
「おいーーー!!」
メリーがポケットから出した小箱を、クロは叫び声を上げながら放り投げた。小箱の蓋が開き、中に入ってた粉が宙に舞う。
「あーあ。お茶に入れて飲もうと思ったのに」
「怖いんだよ!! いつそんなもん手に入れた!!」
「クロ様がお休みの間にー?」
「そうだよな! それしかないよな! 髪も爪も最近伸びないと思ってたけど全部お前のせいだよな! 部屋が綺麗なのもお前のせいだよな!」
「へへっ、喜んでくれた?」
「だから怖いんだよ!!」
長い遊びの時間を終えて、メリーは屋敷へと戻った。メリーのお願い通り、魔術式を教えるためクロは屋敷に客人として滞在していたが、日々何かがおかしくなってく事に気づく。
最初は可愛げのあったメリーのアプローチが、今では安心して生活出来ない程のストーカー行為となっていた。
「もう無理、俺は出て行く」
「わかった。止めないよ。でも絶対見つけ出すから」
自分の好きなように生きる。
そう決めた二人だから、お互い受け入れる必要もないし、止める権利もない。
「アンタに出来んの?」
「ふふ、私を誰だと思ってるの? 最強魔術師の唯一の弟子だよ?」
それを聞いて、クロは不機嫌な顔を崩して笑う。
「そうだな。……まあ、じいさんによろしく」
「師匠はいいの」
「ん、メリー元気でな」
「うん、クロもね」
クロは次の瞬間、その場から消えていた。
いつだったかこの場所で、石版を抱えて世界を恨んでいたメリッサはもういない。今ここには、好きな事に全力を掛けるメリーがいた。
「メリッサ! お前に、レオって客人が来てる!」
屋敷の方から声を掛けられて、メリーは首を傾げた。
メリーはその人物を知らない。少し考えると、クロの言葉が脳内で再生された。
『レオから頼まれたから』
「クロ様の知り合い? じゃあ、クロ様探すのに役立つかな」
メリッサは目元を手で拭うと、屋敷の方へ歩き出した。
「あ……クロさんのお部屋……」
「そう! クロ様、面倒くさがりなのにお風呂好きだったり埃嫌いだったり変なところ綺麗好きでしょ? だからここも、あんまり収穫なかったの」
残念そうに言いつつも、メリーの顔には満面の笑みが浮かんでいた。
途中まではメリーの境遇に同情し、クロとの出会いの部分や楽しく生きられるようになった所で感動したアンナだったが、ラストで何かがおかしくなった。
この目の前の美人は、人の爪なんてものを飲もうとする事実がアンナの頭から離れない。
カランカラン、と音を立ててドアが開く。
「土産買ってきたぞー」
噂をすればなんとやら、クロが紙袋を抱えて店に入ってきた。
「クロ様おかえり」
「あ、お帰りなさい」
店内にいるメリーを視界に入れて、クロはわざとらしく溜め息をつく。
「ただいま。今回はどうやったんだ?」
「レオの位置を把握する魔術を常時発動させててね、あんまり期待してなかったんだけど、上手くいったみたい。レオは普段、転移魔術と縁がないから」
「…………そうか。取り敢えず、あんまりアンナちゃんに迷惑かけんなよ。俺は少し寝る」
クロは諦めたようにそう言って、テーブルに紙袋を置いて借りている自室へ向かった。
メリーの様子が気になったアンナだが、お土産への期待の方が勝ち、紙袋の中身を漁り始める。殆どが食料品だが、何か不思議な物が入ってるのに気づく。
「これ綺麗だけど、なんだかわかります? メリーさんへだと思うんだけど」
淡いピンク色の鉱石で出来たペン軸。
スクロールに魔術式を描く時に適したサイズだ。
「本当だ。私のみたい」
それを受け取り、嬉しそうにメリーは微笑む。
「女の子の趣味わからないって言うけど、好きな人から貰えたらそれ以上に嬉しいものは無いよね」
恋話の気配を感じアンナはそわそわする。
「でもなあ、実用品選ぶ辺り、女の気配がするなあ」
そう言ったメリーから、触れてはいけないどす黒いものを感じ、手を止めていた仕込みの作業へとアンナは戻って行く。
「そうだとしても、やっぱり嬉しいな」
純粋に好きな人を思って目を輝かせる乙女の姿を見る者は誰もいなかった。
六章完結です。
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