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その後、直ぐに怒鳴り込んできた農家の夫人にジェフは謝った。
騒がせてすまない。そんな事実はない。
ジェフがそう伝えると、確かにそこに残って泣きべそをかく子どもに傷は見当たらなかった。
続々と集まる子どもの親にジェフが同じように言うと、犬の所在を問われる。
犬は山へ還した。もうここへはこない。
村人達は納得のいかない顔だったが、なんとか騒ぎが収まった頃、妻と娘が家の影から事態を見ていたことにジェフは気づいた。
心配かけた。
ジェフは、妻と娘にも謝った。
その後、埋めて隠していた物をジェフは掘り起こす。そこから出てきた、商家の出であった母の遺産を二人へ渡した。
こんな田舎では貴金属のアクセサリーなんて持つ者はいない。
それを手にした妻と娘が大層喜んでるのを見つめ、ジェフは最初からこうしておけばよかったと思った。
それと同時に、わずかな寂しさを心に感じた。
家族が寝静まった頃、ジェフはもう一度庭を掘り起こし、わずかであるが古い貨幣の袋を手にする。
それを静かに玄関先へと起き、一息ついたところに声がかかった。
「ケジメはついたか?」
月明かりに照らされたクロが音もなく現れた。
昼間、クロの問いに対してジェフが言った言葉。
『俺はここに残る』
『ケジメをつけてから、そちらへ向かう』
どうやら、ジェフの事をクロは迎えに来てくれたらしい。それに気づいて、ジェフはクロへ頷いた。
妻とは十七年、娘とは十五年暮らした。
楽しかった事もあれば、嬉しかった思い出も忘れられない出来事も沢山ある。ジェフは寂しさで後ろ髪を引かれる思いを感じた。
それでも、最後にはジェフではなく、貴金属に笑顔を見せた妻と娘。
そう、これでいいのだ。
金はいつか消える。それでも、俺といるより金の方が彼女達は幸せになれる。
俺も、一緒にいない方が綺麗な思い出に浸って幸せになれる。
ジェフは、心が変わらない内にと、わずかな食料と必要な物だけを詰めた袋を背負い、弓と小型のナイフを腰にさしてクロへと頷いた。
「俺は、これから山で生きる」
そう言った瞬間、ジェフの視界は光に包まれ、収束した頃には周囲の風景は一転していた。
見知らぬ森の中。
しかし、ジェフの知るものがひとつある。
ジェフが保護して、育てて来た仔犬がそこにいた。
目が合うと、側へ駆け寄ってきた仔犬は嬉しそうに身体をジェフに擦り付けた。
「俺も、昔逃げたんだけど。自分のために生きるって大事だなあって今なら思える気がすんだよね」
静かに呟いたクロの言葉に、ジェフは頷く。
苦しい事もあるだろう。辛い事もあるだろう。勝手が違う生活に、悩むこともあるだろう。
しかし、
ジェフは今まで生きてきた村と常識と家族を捨てて、仔犬と共に森で生きることを選んだ。
自分を殺さないために。
五章完結です。
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