表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最強魔術師は無職です  作者: 十字たぬき
男と犬

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

21/73

1




 陽が暮れ始めた頃、


 男は、家の玄関の前で服を脱いでいた。


 下着姿になり、身体に泥の付着がないか確かめる。一通り確認すると頷いて、やっと家の扉に手をかけた。


「ただいま」


「あんた、汚い足で入ってこないでよ。何回言ったらわかるの」


 飛んでくる罵声。それもひとつではない。


「うわ。入る前に扉叩いてって言ってるじゃん。オヤジの裸とかまじでキショい」


 そう言って、男の娘は狭い自室へ逃げた。


「すまない」


 男は歩いた道を戻り、再び外へ出ると瓶にたまった水で足を洗う。拭うものを忘れた事に気づいて、下着の裾でなんとか代用した。


 家へ戻ると、男に声をかけるものはいない。


 部屋着を着て一息つけば、卓に少し冷めた野菜のスープとパンが置かれている事に気づく。共に食事をする者はいない。


 一口食べることに、更に冷めていくのがわかる料理は、自分と家族の関係に似ていると男は思った。





 男は猟師を生業としていた。近くの山は大きく豊かであったから、その恩恵を受け、男も田舎の平民ながらに豊かな暮らしをしていた。


 しかし、それも昨年までの事。

 この土地を治める領主が、捕獲量を定めたのだ。男は、以前のように猟が出来なくなった。


 隠れて定めを越えた者もいたが、どうやってバレたのか打首になった。その家族と隣に住む家族も、連帯責任でむち打ちの刑に処された。


 罰を避ける為、互いが互いに監視をし合うようになると、男の仕事は減った。山菜を採ってもあまり収入にはならず、木こりの真似事だって上手くはいかない。


 懐が冷えると、家族の関係も冷えた。


 俺は稼ぐためだけの男か。


 そう思ったが、元来の口下手が邪魔をして、男がそれを口に出す事はなかった。


 そして、決定打が訪れる。


 いつものように入った山で、男は怪我をした仔犬を見つけた。


 しかし、普通の獣ではない。魔獣だ。

 男は魔獣の類について疎かったから、なんという獣かわからなかった。だが、それも些細なこと。


 自分が助けなければ死んでしまう。


 その事が、男を動かした。家庭での立場が怪しくなっていく中で、男は自分の存在を認めてくれる何かが欲しかった。


 何でも良かった。自分を認めてくれるなら、家族でも、友人でも、死にそうな仔犬でも。


 連れて帰れば、今までの暮らしが出来ずフラストレーションの溜まった妻と娘から、男は大きく反発を受けた。


 猟に規制のなかった以前ならまだしも、犬の有用性は皆無だ。それに加えて魔獣である。家の主に向けるべきではない言葉すら男に投げられた。


 しかし男は折れなかった。


 結果、仔犬は回復したが、男と家族の関係はより悪化する事となる。






「上手いか。そうか」


 食事を終えた後、男は仔犬へ餌を与えにまた外に出る。家の裏に作った粗末な小屋に、仔犬はロープで繋がれていた。


 仔犬だが、牙は立派なものだ。

 村で生活をする事を考えれば必要な処置だが、それでも男は悲しいものに思えた。


 広い場所で、自由に駆ける喜びを教えてやりたい。


 だが、家族と関係が悪化した男には、仔犬を山へと還す決断できなかった。既に仔犬が心の拠り所となっていた。


「あっれ? 犬? もしかして犬飼ってんの?」


 突然聞こえたその声に驚いて男が顔を上げると、頭から足先まで真っ黒の異様な男が、そこに立っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ