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最強魔術師は無職です  作者: 十字たぬき
ゴブリンの姫

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17/73

3




「踊り……ですか?」


 クロの頭の中では『姫』という言葉が『ヲタサーの姫』にすり替わっていた。

 しかし、そっちの方面に詳しくないクロは、アイドルとヲタクの関係まで混同していた。


「そうそ。アンタらが姫大好きで色々してやりたいなら、その分、姫がその魅力で返せばいいだろ?」


「なるほど。異国の祀り事で、巫女が神に向けて演舞をすると聞いた事があります。それを神ではなく、民へ向けるなんて姫の優しさそのものではないですか!」


 スタンリーの中で祀り事に置き換わってしまったのは国民性の違いである。


「俺もあんま詳しくなくて、昔応援団やった時に覚えたのしか教えられないんだけど」


 そういって軽く触りの部分を、クロは踊って見せた。


「こんな感じ」


「貴方は本気で仰っているのですか!!」


 すると、凄い形相でスタンリーはクロに詰め寄った。


「姫がっ、姫がそんな踊りをしたら、私達の心臓が持たないではないですか……!!」


 何か地雷を踏んだのかと思ったクロだったが、どうやら杞憂だったようだ。


「それに、姫が私達の為に踊ってくれるとして、今以上の何かを差し上げる自信がありません」


「それについては大丈夫。お前たちも参加するんだ」


 そう言ってクロはニヤリと笑った。










 そして特訓が始まる。


 腕を組んでふんぞり返ったクロの向かいには、姫とゴブリンの女性二人がいた。


「俺はな、女性には優しくありたいと思うが、女性であっても舐めた態度の奴は嫌いだ!! 厳しくいくぞ!!」


「「「ギャッ!」」」


「腹から声出せ!」


「「「ギャッ!!」」」


「よし! 俺についてこい!」


 本来、人間とゴブリンの言葉は通じない。しかし、クロならば魔術を使えば会話もする事はたやすいだろう。


 でも、クロはそうしなかった。ゴブリンの集落に住むスタンリー達は言語や習慣の壁を乗り越えて共存していたからだ。


 そんなスタンリー達と共存する姫ゴブリン達は、空気を読んで見事にクロのダンス特訓についていく。






「笑顔を忘れるな!!」

「声が出てないぞ!!」

「足を上げろ! 足を!」


 クロはノリノリだった。コーチになりきっていた。人は役割を与えると、それになろうとするという話がある。その話に信憑性はないが、徹夜明けのクロがランナーズハイに似た状態なのは確かであった。






 特訓も終盤に差し掛かった所で、姫が足を縺れさせて大きく転倒した。


 姫のその脚はとても細い。人間であれば栄養失調で歩けないレベルの細さだ。それに気づいたクロは、静かに姫に伝える。


「諦めてもいい。アンタ達はよくやった」


 姫はその言葉に、目に涙を耐え俯く。



 しかし、姫は立ち上がった。



 歯を食いしばり、膝を震わせながら、自分の力で立ち上がった。


「ギャッ!!」


 再び上げたその顔に、諦めの色はなかった。


 その後、ゴブリン達はやり遂げた。






「アンタ達はよくやった。これは、俺からのプレゼントだ」


 肩で息をしながら、座り込んだ姫達がクロの言葉に顔を上げる。


 クロが差し出したプレゼントとは、夜光花で出来たドレスだった。


「俺が作った特注だからな、いつになっても枯れることはない」


 それを見た姫は、大きな目をさらに見開いた。次の瞬間、姫の頬には今まで我慢してきた涙が伝う。

 見せてはいけないとでも言うように腕で強く拭うと、姫は震える口を大きく開けた。


「ッ! …………ゴギャッ!!」


 それは、感謝の言葉だったのであろう。

 人間には分かるはずのない言葉を、クロはきちんと受け取った気がした。

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