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「踊り……ですか?」
クロの頭の中では『姫』という言葉が『ヲタサーの姫』にすり替わっていた。
しかし、そっちの方面に詳しくないクロは、アイドルとヲタクの関係まで混同していた。
「そうそ。アンタらが姫大好きで色々してやりたいなら、その分、姫がその魅力で返せばいいだろ?」
「なるほど。異国の祀り事で、巫女が神に向けて演舞をすると聞いた事があります。それを神ではなく、民へ向けるなんて姫の優しさそのものではないですか!」
スタンリーの中で祀り事に置き換わってしまったのは国民性の違いである。
「俺もあんま詳しくなくて、昔応援団やった時に覚えたのしか教えられないんだけど」
そういって軽く触りの部分を、クロは踊って見せた。
「こんな感じ」
「貴方は本気で仰っているのですか!!」
すると、凄い形相でスタンリーはクロに詰め寄った。
「姫がっ、姫がそんな踊りをしたら、私達の心臓が持たないではないですか……!!」
何か地雷を踏んだのかと思ったクロだったが、どうやら杞憂だったようだ。
「それに、姫が私達の為に踊ってくれるとして、今以上の何かを差し上げる自信がありません」
「それについては大丈夫。お前たちも参加するんだ」
そう言ってクロはニヤリと笑った。
そして特訓が始まる。
腕を組んでふんぞり返ったクロの向かいには、姫とゴブリンの女性二人がいた。
「俺はな、女性には優しくありたいと思うが、女性であっても舐めた態度の奴は嫌いだ!! 厳しくいくぞ!!」
「「「ギャッ!」」」
「腹から声出せ!」
「「「ギャッ!!」」」
「よし! 俺についてこい!」
本来、人間とゴブリンの言葉は通じない。しかし、クロならば魔術を使えば会話もする事はたやすいだろう。
でも、クロはそうしなかった。ゴブリンの集落に住むスタンリー達は言語や習慣の壁を乗り越えて共存していたからだ。
そんなスタンリー達と共存する姫ゴブリン達は、空気を読んで見事にクロのダンス特訓についていく。
「笑顔を忘れるな!!」
「声が出てないぞ!!」
「足を上げろ! 足を!」
クロはノリノリだった。コーチになりきっていた。人は役割を与えると、それになろうとするという話がある。その話に信憑性はないが、徹夜明けのクロがランナーズハイに似た状態なのは確かであった。
特訓も終盤に差し掛かった所で、姫が足を縺れさせて大きく転倒した。
姫のその脚はとても細い。人間であれば栄養失調で歩けないレベルの細さだ。それに気づいたクロは、静かに姫に伝える。
「諦めてもいい。アンタ達はよくやった」
姫はその言葉に、目に涙を耐え俯く。
しかし、姫は立ち上がった。
歯を食いしばり、膝を震わせながら、自分の力で立ち上がった。
「ギャッ!!」
再び上げたその顔に、諦めの色はなかった。
その後、ゴブリン達はやり遂げた。
「アンタ達はよくやった。これは、俺からのプレゼントだ」
肩で息をしながら、座り込んだ姫達がクロの言葉に顔を上げる。
クロが差し出したプレゼントとは、夜光花で出来たドレスだった。
「俺が作った特注だからな、いつになっても枯れることはない」
それを見た姫は、大きな目をさらに見開いた。次の瞬間、姫の頬には今まで我慢してきた涙が伝う。
見せてはいけないとでも言うように腕で強く拭うと、姫は震える口を大きく開けた。
「ッ! …………ゴギャッ!!」
それは、感謝の言葉だったのであろう。
人間には分かるはずのない言葉を、クロはきちんと受け取った気がした。




