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最強魔術師は無職です  作者: 十字たぬき
ゴブリンの姫

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16/73

2

 



「いやー、こんな豪勢な朝食は久しぶりです」


 そう言って、スタンリーは笑い声を上げた。


 クロはゴブリンの群れの中から現れたこの初老の男、スタンリーの誤解を解くと、何故かゴブリンの集落へ招かれた。


 腹が減っているのに気づき、ゴブリンの集落へのお土産も兼ねてクロがどこからか大量の魚をとってくると盛大に歓迎される事となった。


 今は、集落の広場で朝食という名の焼き魚を食べている。


 真ん中に大きめな焼き場を作り、そこで各々魚を焼いてはそこらかしこでゴブリン達も座って魚を食べいた。


「何か色々と気になる事があるんだけど……」


 スタンリー以外にも、数人ゴブリンに混じって魚を食べる人間を見てクロは呟いた。


「私がお答え出来ることでしたらなんなりと」


「人間がゴブリンと住んでるのって珍しくね?」


 ゴブリンとは、緑の肌を持つ二足歩行の種族である。亜種はいるものの、その殆どが爬虫類を思わせる瞳孔が縦長の大きな瞳を持ち、耳は長くとがり、成体でも人間の子ども程のサイズである。

 声帯は異なるものの、人間に似通った形をしていることから、多くの国でペットや家畜としての捕獲を禁じられている。倫理観の問題だ。それ以前に、人間の美醜感覚からするとペットには向かない。


「ふふふ、早速それを聞いてきますか」


 スタンリーは聞いて欲しかったらしい。嬉しげに語り始めた。






 ――――――――――


 まずは、私の事からお話しましょう。

 そう長い話ではございません。


 私は、植物の研究を生業としておりました。

 この界隈では割と顔が広く、有難いことに、王城の庭に私が品種改良した花を植えるという名誉をいただいた事もございます。


 しかし、その事でつい欲が出てしまい、もっと綺麗な花を作ってもっと大きな名誉を得ようと夜光花の研究に手を出しました。

 ですが、あまり手が付けられていない分野でしたので資料も乏しく、私は探索者を連れて群生地に出向くことしたのです。


 時間はそこそこかかりましたが、大規模な群生地を発見することが出来ました。これで研究が捗ると思った矢先、私達に死の危機が訪れます。


 ここまで来る最中に恐らく虫に刺され、病を貰ってしまったのです。


 熱でうなされ、霞む目で私が最後に見たものは、優しく差し伸べられた手でした。


 ふふふ、お気づきになったでしょう?


 そうです!我が姫が、自ら手を差し伸べてくれたのです!!


 回復するにつれ、段々と意識が醒めていく中、甲斐甲斐しく私達の看病をしてくださる姫に、私達は命の代わりに心を奪われました。


 そして決めたのです。私達は姫に一生を捧げようと……!


 ――――――――――






「………………花は?」


「花はもう良いのです!王城の庭を飾るよりも、姫の笑顔を守ることが私達にとって最高の名誉となるのです!」


 クロは理解に苦しんだ後、考えることを放棄した。


「でもさ、言葉が通じないと不便でしょ?よくこんな溶け込んだよな」


 広場に目を向けたクロの視界の先では、魚を食べながらゴブリンに向かって笑顔で話す人間が見える。


「簡単ですよ。共に暮らしてわかったことですが、彼らの言葉は基本的に三単語しかありません」


「何それ気になる……!」


「肯定や挨拶が『ギャ』、否定は『グギャ』、強調したい時には『ゴ』をつけます」


「…………そんだけ?」


「はい、それだけです」


「なんつうか、すげぇアバウトなんだな」


「人間と比べれば頭の発達は劣るでしょう。しかし、ジェスチャーを加えればある程度の会話が可能になります。後は人間の言葉で話しても、熱量があればなんとなく通じます」


「いや、脳筋処世術で驚きだわ」


「彼らの気質がそれを可能とするのです。彼らは基本的に穏やかで、無駄な争いを好みません。これはとても素晴らしい事だと思います」


「…………確かにそうだな」


 同じ種族でありながら、戦争や諍いの耐えない人間社会を思い出して、クロは目を伏せて頷いた。


「そういえば姫って言ってたけど、ゴブリンにも王族的なもんがあるんだ?」


「いえ、私達が勝手にそう呼んでいるだけです。しかし、姫の絶大な人気はゴブリンにとっても変わりません!」


「ふうん。でもなんかなあ。ちやほやされて姫扱いされる女ってなんかやだよね」


 そう言って、先程怯えていたゴブリンの姫をクロは思い出し、げんなりした。

 しかし、本来言葉の通じない異種族がいきなり目の前に現れたら、戦う術を持たない者が怯えるのは普通の事である。これはただのクロの自意識過剰であった。


「ギブアンドテイクが成り立ってないじゃん」


「それは聞き捨てなりません!!姫は我々に優しさを与えてくれます!!」


「優しさだけじゃ腹は満たされないじゃん」


 尤もな事を言ってるようで中身のない言葉だったが、あまりに姫への熱量が高いスタンリーを見てクロは、ある事を思いついた。


「そうか!!でも俺が知ってるのは、ソーラン節……盆踊り……それじゃだめだよな。なにか……なにか……あ、一個あったわ」


 いきなりブツブツ言い始めたクロをみて、スタンリーは訝しげにそれを見つめた。


「なんの話ですか?」


「姫に踊ってもらおう!」

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