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最強魔術師は無職です  作者: 十字たぬき
ゴブリンの姫

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15/73

1

 



「あー。まじでビビった……」


 そう呟いたクロは、夜明け前の上空にいた。


「正直会ってもいいよ? でも、いきなりあんなスピードで接近してきたら怖ぇじゃん」


 クロは、人の気配を察知する魔術を常時発動している。本人曰く、普段は疲れるとの理由で気にしないようにしているが、何かが急に迫ってきたらさすがに気づく。


「最近街に引きこもってたし、たまにはブラブラするか。……って、俺何一人で喋ってんだろ」


 咄嗟に退避したのは無差別に選んだ場所。クロがゆっくりと下降していけば、その真下には山があった。


 段々と山の詳細がわかる頃に、クロの視界に白い花の群生が映る。


 特に花が好きと言う訳でないが、クロは四季の移り変わりを楽しむ習慣のある国で生まれた。


 春には薄ピンク色の花弁が舞い散り、夏には太陽を真っ直ぐに見つめる花が咲き、秋には樹の葉が赤く染まり、その葉が全て落ちた頃に時折雪が降る。


 それらを楽しむ心を持って育ったからこそ、花の群生が目に入れば自然とクロは見に行こうと決めた。






「わ、すげぇ」


 クロが思わず呟いた視界には、夜明け前に淡く光る花が咲き誇っていた。


 太陽の光を集め、夜に発光する夜光花の一種のようだ。


 クロは、出来るだけ花を踏み潰さないようにしながらその中を歩く。人外レベルで魔術を使うクロから見ても、それは幻想的な光景だった。


 暫く歩いていると、クロは自分以外の誰かがいるのに気づく。


 無意識にそちらに進めば、夜明けの優しい明かりに照らされた()()()が沢山の動物達に囲まれてるがわかった。


 鹿、兎、小鳥にリス。身体に白い一枚布を纏わせて、沢山の動物と共に花畑の中で佇んでいる。まるで御伽噺に出てくるお姫様だ。


 ふと、()()()がクロの気配に気づき顔をあげた。


 華奢な身体に、こぼれ落ちそうな程の大きな瞳。

 そして、()()()()()()





「って、ゴブリンかよ!!!!」




 勝手な期待を抱いたクロが思わず大きな声を上げると、動物達は一目散に逃げ出した。


 ゴブリンは胸元に手を当て、不安げにクロを見つめる。


「いや、ごめん、大きな声を上げて悪かった。けど、ゴブリンにも見境なしに欲情してるこの男怖いみたいなポーズ取られると俺も傷つくんだ……」


 言葉が伝わらないのも忘れて、何か言い訳のようにブツブツと早口でクロは呟く。


 ゴブリンはその大きな瞳を潤ませて、フルフルと震え出した。


「いや! だから! 男がいつだって悪者だと思うなよ!!」


 クロが勝手な思い込みでまた大きな声を上げると、森がざわつき出す。


 どこからか現れた、武器を持つ多数のゴブリンにクロは周りを囲まれた。


「グギャー!!」

「グギャー!!」

「グギャー!!」


 ゴブリン達が声を上げて威嚇する。石と木で作った簡素な槍をクロに向けるが、距離を取り襲っては来ない。


 白い布を纏ったゴブリンが()()の役割を果たしているのだ。


「まじで本当に勘弁してください! 俺の自尊心がもの凄いスピードで傷ついてくから!」


 何も解決はしないのにクロが感情のままに喚いていると、ゴブリンを掻き分けて遅れてやってきたらしい何かが声を上げた。


「探索者の方ですか!?」


「……あれ? 人?」


「お願いです! 姫を! 姫を返してください!!」


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