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「どうした!?」
レオが二階の廊下へ駆けつけると、メイドの一人が少女を抱きしめるようにして床に座っていた。
「お嬢様がいきなり倒れられて……私、どうしたらいいかわからなくて……」
そう言ってメイドが嗚咽を漏らし始めた頃、料理人を除く他の使用人達も集まってきた。
「まずはベットに運ぼう」
そう言って、レオは少女を抱き抱えた。
「医者を呼んできます」
すると使用人の青年が即座に反応し、その場から踵を返して階段を降りていった。
「お嬢様の部屋はこちらです」
家令のビルは部屋の扉を開け案内し、中年のメイドは歳若いメイドの背中をさすって落ち着かせている。
レオがラルムの娘をベットに寝かせると、もう一人の娘いない事に気づく。
「もう一人はどこへ行ったんだ?」
「私は存じません。お前達」
ビルが遅れて部屋に入ってきたメイド二人に問いかけるが、二人は首を横に振った。
「ここは任せた」
そう言って、レオは部屋を後にした。向かうはクロのいる客間だ。
レオは知っている。
クロが魔術を使いこなすことを。
魔術で色々な事ができるのを。
『突然の流行病』
『階段からの転落』
『謎の毒と虫の死骸』
『奇妙な双子』
わからないことだらけだが、きっとクロなら解決してくれる。
廊下を早足で歩くレオは、非常事態の中で自分の胸が高鳴っていることに気づいていた。
「クロ! 君の力が必要だ!」
レオが客間の扉を開けると、クロは窓の外を眺めながら黄昏ていた。どうやら本は読み終わったらしい。
「なんだよ。また凄い作品に出会ったんだ。少しは浸らせてくれ」
気だるげに言うクロと読み終わった本を見て、レオは急に思い出した事があった。
「その本は、前編後編で二冊あった筈だがもう読み終わったのか?」
「…………え?」
「まあいい。取り敢えず聞いてくれ、緊急事態なんだ」
「待て待て待て! 今何か大事なこと言っただろ!? 二冊あるのか!?」
「その筈だが。酒場に忘れてきてしまったかな?」
「まじかよ。この壮大な物語の続きがあるのかよ。まじやべぇよロベルト先生。……じゃ、俺は帰るわ」
「待て! 緊急事態なんだ! 双子の娘のうち、片方が倒れた。もう片方は行方不明だ」
「まあ、そうなるだろうなって思ってたよ」
クロの言葉に、レオの開いた口は塞がらない。
「じゃ、帰るわ」
「待て! 僕はこの結末が知りたいんだ! それに、色々と問題が残ってるだろ! 君の力が必要だ!」
そこでクロは思い出す。
貰った本と追加の本。本が自分に与えてくれた感動と自分は何もしていない事実を。
クロは、人に借りることはよくするが、借りっぱなしは気持ち悪く感じて嫌いだ。今回はレオからお気に入りの作家・ロベルトの超大作の本を貰った。
「しょうがねえなあ」
その言葉を聞いて、レオの顔は晴れた。
レオは常に目立つ行動を起こすが、自分は物語の主人公的な存在ではないと思っている。だが、それでいい。
変わらない日々を忘れさせてくれるような、何かがあればそれでいい。それを間近で見られるなら、それが嬉しい。そういう性分であった。
先程聞いた使用人達の話を掻い摘んでレオは話した。
聞き終えると、クロは腕を組んで目を閉じたまま、リズムを刻むかのように右の踵を鳴らし始めた。
カツ、カツ、カツ
三拍鳴ると、ソファの布部分が黄色地に黒の水玉模様に変化した。
カツ、カツ、カツ、
また別のソファが黄色地に黒の水玉へと変わった。
ソファとカーテンが見る間に変わり、異様な部屋へと変わった頃、クロは目を開けた。
「んじゃ、終わらすか」




