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長閑な田園を背にして、クロとレオの二人は屋敷の前で立ち往生していた。
屋敷の近くで草むしりをしていた使用人風の男に声をかけたはいいが、手紙もなく口約束だと言って現れた二人組は大層怪しまれた。
片方は、何故かこんな田舎では見ることのない上等な甲冑を着ているし、もう片方も頭からつま先まで真っ黒。その上着はフードのついたローブを腰でぶった切ってるようだ。
しかも、周りには馬車どころか馬もおらず余計に怪しい。
主人であるラルムから頼まれて来たと言われて、はいそうですかと笑いながら屋敷の中に案内する程、使用人はバカではない。
「……とりあえず、家令の者に伝えてきます。自分じゃ判断できないんで」
そう言って、屋敷の裏口へと男は向かった。
「お前バカだろ。なんで一筆貰わないんだ」
「つい気持ちが逸ってしまったんだよ」
「なあ、この紋所が目に入らぬかーみたいなスーパーアイテムとかねぇの?」
「ああ、そうか! さすがクロだな」
そう言って何処からかレオは懐中時計を取り出した。どうやら、家紋が入っているもののようだ。
レオの自身は新興の男爵だが、実家は公爵家。その昔には王族の血も混じっているから、公爵家の名を語るようなバカはそうそういない。身分を証明する上では信用のおけるものである。
ふと、二人が同時に視線を感じた。
そちらに意識を向けると、
全く同じの顔をした少女二人が手を繋いで、クロとユリウスを見ていた。
しっかりとした生地にフリルのついたワンピースを着ていることから、あれがラルムの娘なのだとレオは察する。
「「だあれ?」」
二重となった高い声がレオに届く。
「はじめまして。僕は君達のお父さんの友達だ」
その言葉を聞いた双子は、可愛らしい顔を化け物のように歪めた。
「「消えろ」」
少女達が呪いの言葉のように低く唸る。
「「消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ」」
「お嬢様!」
屋敷から出てきた男の声を聞いて、双子はその場から走って立ち去った。
「すみません、お客様」
そう謝った男は、先程の使用人と違いしっかりとした身なりである。その事から、この屋敷の家令だとレオは判断した。
「気にしないでください。慌てていてラルム殿に一筆貰うのを失念してしまったのですが、屋敷の件を任されたレオと申します」
敢えて家名も爵位も名乗らず、レオの右手で煌めく懐中時計を見せつける。
それを視界に入れた家令の男は目を見開いた。作戦は成功のようだ。
「では、リルム殿の言っていた不穏な事を一から説明していただきたい」
客間に案内され、レオと家令の男はテーブルを挟んで腰掛けていた。
クロはレオの隣に座ってるものの、靴を脱いで膝を立てた状態で先程貰った本を読んでいた。話に参加する気はないらしい。
家令の男は困惑した顔でクロを一瞥した後、口を開いた。
――――――――――
事の始まり、とでも言えばいいのでしょうか。
先日、流行病により屋敷内で立て続けに不幸がありました。ええ、そうです。ご存知でしたか。
その後間も無く、旦那様は王都へ行かれる事になりました。
王都に滞在されてすぐ、旦那様は医学の知識がある方とご縁があり、この病は潜伏期間があると知ったそうです。
この屋敷に勤める者も、全員が罹った訳ではなかったのですが、残ったお嬢様方の事を考えると旦那様は居てもたってもいられなかったようで、使用人の一斉入れ替えを行ったのです。
私もその時、王都で紹介を受けてこちらで働かせて頂くことになりました。それが先月の中頃のことです。
私共は、引き継ぎの後すぐお嬢様にご挨拶をしようとしたのですが、大変塞ぎこまれた様子でしてお嬢様がお部屋から出ることはありませんでした。
御家族の不幸の後すぐ、旦那様の出張が決まってしまいましたので無理もありません。
私共は、メイドの一人にお嬢様方のお世話を全て任せることにしました。お嬢様方に今は時間が必要だと思ったのです。
屋敷の管理をメインに私共は働いておりましたが、先月の終わりに事故が起こりました。
お嬢様のお世話をしていたメイドが階段から転落して意識不明の状態となったのです。
ああ、ご安心ください。脳震盪を起こしたせいで一時は意識がありませんでしたが、その後すぐ回復し、今は足の捻挫の療養に実家で休ませております。ここの領民の娘ですので、割と近くに住んでおりますよ。
その一件で、お嬢様方の心に何か思うことがあったのか、お部屋から出てこられるようになりました。
私共は、そこで初めてお嬢様方と顔を合わせることとなったのですが……。
先程ご覧になられたように、いつもお二人は一緒で、お話する時は同時に話されます。あのように、感情が高ぶっておかしな事を仰る事も時折ございます。
まだ幼いのですから、まだまだ心の傷が癒えておらず、ああして大人の気を引く行動をなさるのでしょうね。可哀想なことです。
私共は、お嬢様が安心して過ごせるように日々勤めておりましたが、先日屋敷に異変が起こりました。
引き継ぎでは一切聞いておりませんでしたが、屋敷の周りによくネズミがでるようになりました。
その後すぐ、コックローチの死骸が屋敷の周りに現れるようになったのです。
使用人の間で話し合い、屋敷の周りを頻繁に巡回していたところ、屋敷の外に生ゴミが捨てられているのを見つけました。
様子を見ていたところ、集まってきたコックローチがそれを食してすぐひっくり返ったそうです。生ゴミには毒が入っていたのです。
勿論、私共の中に犯人はおりませんよ。旦那様は領民とも良好な関係を築いていらっしゃいますので、あまり疑いたくはありませんが……。
人の仕業以外には有り得ませんので、急いで旦那様に手紙で報告致しました次第でございます。
――――――――――
「お話、ありがとうございます」
暫しの間レオは考えたが、何も答えが見つからなかった。頭が使えぬなら足を使え。そんな持論で、聞き込みをする事に決める。
「屋敷の皆さんから話を聞きたいので、順番に呼んで頂けますか?」
「かしこまりました。今から呼んで参りますので、少々お待ちくださいませ」
そう言って、丁寧な礼をすると家令の男は扉から出ていった。
「クロ、どう思う?」
投げかけた言葉に返事は無かった。クロは、未だ本を読んでいるようだ。いつの間にかどこからか持ってきたらしいオットマンに足を乗せ寛いだ体勢に変化している。
返事がない事を特に気にすることも無く、レオは既に冷めた紅茶を口に運んだ。




