99 あなただけの問題ではない
「アーサーによって【ホーム】が襲撃された!? 何という事だ……! もしそれが本当だとしたらあの画面に映っていた男の目的は一体? 」
「分からない。地区代表のいる建物には他の兵士たちの居住用の階層があった筈だ。我々と共にアースの未来の為に戦っていた彼等もあの男と同様に何らかの目的でアーサーと結託しているのか、それともアーサーの襲撃に抵抗虚しく全員やられてしまったのか。
どちらにせよ敵はホームにいた大勢の人間か、それらの戦力を圧倒するほどに、強大な力を持ち併せているらしい」
学長はオサの言葉を聞きながら恐るべき事態が迫っている事を肌で感じていた。もしもあの謎の兵士の目的がトレインの強奪であり、そしてドーム内への侵入であるとするならば惑星マキナの問題どころではないほどの大規模テロが起きる事になる。
それに加えて推測の域にはすぎないものの、この件にはアーサーが関係している可能性が高い。アーサーの中には地球を滅ぼした人類に恨みのある者もいるらしいとアラムから聞かされている。
もしも彼等の目的が人間への復讐だとしたら……。そう考えた学長がみるみる青ざめていくのを見て、オサも自分が考えているよりもまずい状況に陥っているのだろうと確信したようだった。
「何か知っている事があるようですね、コウゾウ殿。こんな時にまで必要な情報さえも隠す人ではない事を私は知っています。リバイブの未来のために、そしてこの惑星に生きる人々の安全のために知っていること全て、お話し願いたい」
学長は周りに誰もいない事を確認すると、アラムから聞いていたアーサーに関する情報をいくつか話していく。オサはそれらを熱心に聞いて、自分の端末資料にデータとして記していく。何かを黙って考えているようだったが、学長が話を聞きたそうに自分の方を見つめているのに気づくと、学長の方へ向き直り端末を見せる。
「恐らく彼等の狙いは、こちら側の6つのドームへの侵入だろう。あなたも知っての通り、【ホーム】とこちら側のドームとを行き来する為にはどうしてもトレインが必要だ。【ホーム】に通じるトレインの道は他のドームとは違い、ドームと同じ材質の壁によって囲われてはいない。そのせいで酸素がないからだ。
だとすれば、本来こちら側からトレインを送るなどもってのほか。悪の組織とアーサーが手を組んでいるのだとすれば、目的は恐らく我々への復讐、ということになる。
しかし私は……地区代表だ。ホームの守衛を引き受けてくれた兵士達の中には【キャピタルドーム】から派遣されている者たちもいる。もし本当に彼等が病に倒れているのだとしたら、私は見過ごす訳にはいかない」
「なんと……まさかあなたは、【ホーム】へトレインを送るおつもりですか!? そんな事をしたらこの国の未来が……」
「仲間の命と引き換えに、安全な未来を手に入れる。それがあなたの考える地区代表の在り方なのですか? 」
オサは怒りとも哀しみともとれぬ表情で、それでも真っ直ぐな目で学長の目を見つめている。学長は何も言い返す言葉が思い浮かばずに、黙って目を逸らした。オサは少しの間学長の沈黙を口を閉ざしたまま受け入れていたが、やがて彼を納得させるために自分の考えを話し出す。
「もちろん、ただトレインを送るだけではない。私も【ホーム】へ同行する」
「そんな! 強大な戦力を有した敵軍の本拠地へと単身で乗り込むなど……いくらあなたほどの実力者であったとしても、一人でアーサーや悪人たちを抑え込むことなどできるはずかないでしょう! 」
「しかし、だからと言って私以外の誰かを巻き込みホームへ連れて行くことなど、私には許されない。もちろん、【ホスピタルウォール】制圧用武装のケービロイド数十機の指揮権を【スペースゲート】から借りていく交渉はさっきしておいた。元々、何の警備もなくトレインを運行することなど出来るはずもないのだ。ケービロイドを【ホスピタルウォール】の医療用と同じ塗装にすれば彼等も警戒する事はないだろう」
オサはどうにも、考えを曲げそうにない。学長は頭を抱えながら仕方なく、呟く。
「それだったら、私も行きます。地区代表とはいえ女性一人で何者かに占領された敵地へと行かせるわけにもいかない」
「なっ……心配など無用。私1人で十分だ、他の誰を巻き込むこともしない」
「いえ、1人で行くつもりならこの事はドーム中に公表します。地区代表会議の外であなたが決定した事だ、守秘義務もない。そんな危険に貴方を合わせることなど国民が許すはずもないでしょう」
オサは唇を噛みながら学長の方を睨むが、さっきとは違い学長は目を逸らすことなくオサの方を見つめたままであった。
「……卑怯だ、貴方は」
「卑怯で結構。これはあなただけの問題ではない、惑星リバイブに生きている私の未来もかかっているのですから。さぁ、どうされますかな? 」




