98 学長の想い
「皆さん、お疲れ様でした」
学長は会議終わって資料などの片付けを終えると円卓近くで立ち話をしていたカゲツとジュノ、エンノスケの方へと近づき挨拶をする。ゲインは自分の店の方が気になっていたらしく早々に片付けて【キャピタルドーム】を去ったらしい。ワタリはオサと何か話したい事があるらしく早めに建物の外へと出て行った。
「おう、コウゾウ。お疲れさん……と労いの言葉をかける前にだ。あいつらアーサーのこと、どうしてこの俺に何の相談もなかったんだ? 俺ほど相談しやすい先輩もおらんだろうに」
カゲツのいつもの謎の愛情こもった後輩イジりを学長はまるで別世界に存在するかのように華麗にスルーしながらも、彼の疑問にはきちんと答える。もちろん、ジュノやエンノスケも同じことを聞きたそうであったからなのだが。
「アーサーの事は公にしないようにしていたんです。彼等によってアースが復活すれば、またどこかの惑星の誰かがアースに侵略を始めるかもしれない。
もちろんアーサー達にも抵抗する力はあるが、彼等でアースを護り続けられるほど我々の科学技術の進化も遅くない。だからこそ、新たな知的生命体がアースで繁栄するまでは出来る限り悪意ある人間にアーサーたちの計画のことを知られるのだけは避けたかったのです。
ただし、それはアーサーの意思ではなく私自身の……父親としての意思なのです」
「なるほどな、やはり……お前の息子は彼等と共にアースへ着いていくつもりなのか」
カゲツが機械の腕で自分の口を覆いながら、小さく呟く。黙って話を聞いていたジュノやエンノスケはその言葉に驚きを隠せないようだったが、学長の次の言葉を気にして黙ったままだ。
「そうです。アラムたちには惑星リバイブの人間は、アースから逃げ延びた人間がたどり着いた惑星の未知の自然に滅ぼされたという過去の前例から自然を良く思っていない、と説明してあります」
「まぁ嘘ではないか。そういう派閥もいることには間違いないものな」
「ええ。私には息子の意思を止める権利はない。彼は必ずこの惑星を旅立ちます。
どちらにしても、私は出来るだけ多くのアーサーを探して送り出さなければならない。彼等が無事に旅立ちアースへ向かう為なら……いや、アラムを出来る限り危険な目に合わせないためなら、私はどんな手段でも使いますよ」
「あ、あの……その、アーサーの事について気になる事がありますです」
今まで黙っていたジュノが何かを思い出したように学長の方を向いて喋り出す。その顔はどことなく助けを求めているようでもあった。
「最近【メカニカルフォックス】の牧場区の奥地にドームの管理下に置かれていないはずのゼルが集まっている場所があるのでありますです。その一帯は牧場区が作られた際に放棄された居住区で、今はほとんど人が近づかないでありますですが……最近不審な人影が確認されたとか、地面から緑色の毛のようなものが生えてきてるとか、不思議な噂が職員の皆さんの間で流れているでありますです。
これって、もしかしたらアーサーに関係あったりとか……」
「なるほど。緑色の毛みたいなものか……テラフォーミングの影響で、地面に雑草が生えているのかもしれないな。
ジュノくん、後でうちの息子たちに合わせます。うちのアース研究チームと連携して、是非ともその噂について調べさせていただきたい」
「は、はい……! よろしくお願いしますでありますです! 」
3人が建物の外へ出ると、そこではワタリとオサが神妙な顔で立ち話をしていた。オサは3人を発見すると、挨拶をしながら近づいてきた。
「皆さん、お疲れ様でした。すいませんがコウゾウ様をちょっとお借りしてもよろしいですかね? 」
「ああ、構わんよ。なぁ、コウゾウ? 」
学長が黙って頷くと、カゲツはその背中を軽く叩いてからジュノを担ぎエンノスケとワタリを連れて歩き出した。学長は背中を押された衝撃で勢いよくすっ転んでしまったが、彼等はそれに気づく事なく歩いていった。学長は大笑いしながら歩くその背中を睨みながら、いつかあの危険な機械の腕を分解してやろうと心に誓う。
「す、すいません。それであの……お話とは一体? 」
「貴方はどう思いますか? さっきの……【ホーム】の方のお話」
学長はオサの質問が意味するところがわからなかった。しかし、確かにあの兵士が喋り始めた時に1人険しい顔をしていたのが気にはなっていたのだ。学長が不審な点に気づいていなかった事を理解したオサは続けて喋り始める。
「私はリオンがアーサーだと見抜く事が出来ませんでした。彼等はそれほど精巧に、まるで人間のような姿に作られている。それをどうやって彼等は見抜いたのでしょうね」
「言われてみれば確かに……アーサーであると知るにはその研究をしている者か、もしくはアーサーと親交のある者でなければ判別は難しいですよね」
「貴方がいうなら、やはり私の勘は間違っていなさそうだ。彼はアーサーと繋がっている。感染症が事実であるかどうかはさておき、彼とその協力者であるアーサーによって【ホーム】の地区代表が襲撃されたのだ」




