93 皇帝の要求
earth-er systemという聴き慣れない言葉に地区代表達は首を傾げてお互いの顔を見合わせている。この中でアラムとリオン、学長だけが意味ありげにこっそり視線を交わしていた。
まさか惑星マキナの皇帝がアーサーについて何か知っているなど、予想もしていなかった。しかしそういう話ならば彼が惑星リバイブの言語を覚える必要があったのも納得できる。アーサー達のモールス信号は惑星リバイブの祖先が使っていた言語で使用されていたためだ。今まで出会った全てのアーサーが統一された言語で会話をしていたのだから、彼等を理解するためにガルアリクは研究を重ねたのだろう。
惑星マキナへと漂着したアーサーのカプセルがあったか。もしくは、発見されたカプセルを何者かが誤って惑星マキナへと輸出してしまったか。どちらの可能性も考えられる。しかしいずれにせよ、全てのカプセルがこの惑星へ集まっていると思っていたアラムとリオンには全く想定していなかった状況になった。
幸いな事に、アラム達は地区代表会議が始まってからまだアーサーに関して誰にも話してはいない。自分たちさえ口を割らなければこのまま情報を漏らす事なくこの場を逃れられる。リオンと学長も当然同じ考えらしくそれぞれ目を逸らして口をつぐんだ。
しかしアラムは嫌な予感がしていた。何か大事なことを見逃しているような、そんな予感が。
オサが代表しておずおずと、ガルアリクへ質問する。
「皇帝陛下、その……Earth-er systemとは一体何なのでしょうか? 」
「おや。キミは何も聞かされていないんデスね……でもそこのキミなら、知ってるハズですよネ」
そう言ってガルアリクはアラムを指差す。アラムは黙ったままだが、顔は青ざめており明らかに様子がおかしい。皆の視線が注目する。ガルアリクは隣にいたハルバートの背中を押すと、ハルバートは喋り始める。
「惑星リバイブで、俺はこいつが連れていたアンドロイドが奇妙な力を使うのを見たんだ。そのアンドロイドの足元からは無限に水が溢れ、別のやつはプールの水が凍ってしまうほどの冷気を放出していた。
俺は惑星連盟随一の科学力を誇る惑星マキナの技術で作られたアンドロイドだと思っていたから、留学生としてこの惑星へとやってきてからその技術を探し回っていたんだ。しかし、最終的に皇帝陛下にお尋ねしてもそんな技術はこの惑星で研究していなかった。
アラム、お前はただの道楽息子じゃあない……一体何の研究をしているんだ? 」
言葉が喉を通らない。アラムは俯くことしか出来ずに、三度静寂がこの会議室を支配する。少し視線を上げるとガルアリクが笑顔で自分を見つめている。相手は大国の皇帝、自分の言動によってはリバイブそのものを危険に陥れかねない。そう考えると更に言葉に詰まってしまった。
「もうさ、ここまできたら隠しても仕方ないでしょ」
リオンの声にアラムは顔を上げる。リオンはそう言って立ち上がるとモニターの向かいに立って、高らかに宣言した。
「俺、お前が探してるそのアーサーシステム? の1人だよ」
「おいっ、リオン! 」
「あーもううるさいって。お前は黙って座ってろ、アラム」
ガルアリクは興味津々でリオンの方を見つめている。ずっと探していた宝物を見つけたような、喜びと期待に満ち溢れた目をしていた。
「そうか、リオン……と呼ばれていたネ。キミ以外のEarth-erを連れて、早く私のトコロへおいで。宇宙船は私が手配スルカラさ、キミのコトを研究させてくれよ」
まるで画面越しで会話していることも忘れたかのように笑顔で両手を差し伸べるガルアリクに対して、リオンは不敵に笑いながら握った拳を突き出し親指を立て下に向ける。
「あのな。プロジェクトアーサー……遥か昔、滅びゆくアースの上で造り出された俺たちには何に変えても優先すべき使命がある。それはアースの復活、再生。そしてその使命は俺たちが自分達で考えて選ぶんだ。
少なくとも俺や俺の仲間はこっちで信頼できる協力者たちを探してる。信用できるかどうかもわかんないお前の指図は受けねぇよ、ばーか」
「ほぉ……? 」
ガルアリクはリオンの挑発に少し苛立った様子ではあったが、落ち着いた振る舞いで煽るように言い返す。
「不思議な話ダネーェ。確かキミたちを作った博士……レオナルドはアースを滅ぼした元凶といっても過言ではない男ダロウ。あの戦争に協力し、世界を喰い尽くした兵器を産み出した天才科学者。そんなカレがどうしてアースを復活サセヨウとする?
どちらにせよ、彼は我々のミカタだった男だ。彼が死んだ今、キミたちEarth-er の所有権は彼が属した組織の末裔である我々にあるヨ。Earthの復活も大いに結構ダケド、それよりもキミはownerである我々の言うことを聞いてその力を使うべきナノダヨ」
ガルアリクはどういうわけかアーサー達を自分のものにしたいらしかった。既にアーサーの事を知らない地区代表達は2人の話にまるで追いついていない。リオンはガルアリクの暴論に臆することなく、彼が勘違いしている点を冷静に指摘する。
「皇帝さんよ、あんた一つ勘違いしてるぜ。アース復活はレオナルドから指示されたものだ。つまり指揮権はまだレオナルドにある。というか、そもそもあいつは死んでない。アースでコールドスリープされてる。惑星リバイブにたどり着いた生き残りたちと同じように」
「キミ……いったい何を言ってるンダ? レオナルドが生きてるだって? 」
彼の言葉に驚いたのはガルアリクだけではない。アラムや学長だけでなく、地区代表会議に参加する全員が口を開けたまま動かなくなった。
滅亡前のアースを知る人間など、とうの昔に寿命が尽きているはずだ。それがリオンの話ではたった一人、冷凍保存されたままアースに生きているというのだ。それも、アースの歴史上最高にして最悪の知能を持った科学者が。
しかしガルアリクがそう簡単にリオンの話を鵜呑みにするはずもなかった。彼はすぐに驚きを隠し、自分に言い聞かせるようにしながらリオンに反論する。
「そこまで言うのなら、ちゃんと証拠を出してミロ。レオナルドが生きていると言うのならば、確固たる証拠があるハズダロ。キミの話が本当であると証明できないのなら、その時はキミたちは惑星マキナの管理下に置く」
「証拠、って言われても……」
そう言いかけた時、リオンの中でまた一つ遠い記憶のロックが解錠された。




