91 アラムvsジャッジ
「まずは議題を聞かせて欲しい。議題、つまり君が何を話し合うためにこの場に来たかったのか。僕たち代表候補がこの会議に参加する事になったのは、君の希望だと聞いている。一体なんのためだ? 」
ジャッジはそう言って睨みながらアラムの方を指差した。席に座っている面々が一斉にアラムとリオンの方を向く。ジャッジはさらに追い打ちをかけるように言葉を続ける。
「君の一言でこの場に来るという僕の目標の一つが達成したことに関しては、君にとても感謝している。オサ殿と共にこの場に来られる機会など恐らく二度とないだろうからね。
しかし、僕も君のあまり良くない噂は少なからず耳にしている。もし君が何かくだらない思いつきや企みのためにこの場を利用し僕たちだけでなく大人達の事も利用しようとしているのなら、僕は君を許さない」
ジャッジはアラムを睨みながら矢継ぎ早に言葉を投げつける。見兼ねたフガクが咳払いをすると、ジャッジが反省したように言葉を止める。アラムはその迫力に少し言葉を躊躇したが、やがて意を決して話し始める。
「俺の目的は、【ホーム】に捕らえられた俺たちの仲間を解放することだ」
アラムの突拍子もない発言に、その場にいた事情を知らない者達はどよめく。隣に座っていたジュノも驚きの表情でこちらを見ているのがわかる。ジャッジは苛立ちを隠せない様子で、両手で円卓を力強く叩き立ち上がる。突然の出来事に場は静まり返るが、一瞬の静寂を打ち砕くようにジャッジは叫び声を上げる。
「どうせそんなことだと思っていたんだ! 大方、罪を犯して【ホーム】へと連行された友達だか恋人だかを連れ戻そうのしているんだろう! ふざけるなよ、惑星リバイブの規律を乱した者たちを善良な市民たちの元に解き放つなんて、許される行為じゃない。そんなことにこの神聖な場を使うなんて! 」
「まぁまぁ、落ち着けよお坊ちゃん。まずは言い分を聞いてみようぜ。さあ、話してくれよ」
フガクは楽しそうに手を振りジャッジのことを宥める。ジャッジは肩で息をしながらフガクの方を睨むが黙って着席する。アラムは表情を崩さぬままにまた語り始める。
「ああ、俺もこの会議に出てみて分かった。皆がどれだけ惑星リバイブのことを真剣に考え、そして未来を掴もうとしているのか。ちょっとは反省もしたよ。
でも俺にも掴まなきゃいけない未来がある。手放せないものがある。ジャッジが何を言おうと俺の目的は変わらない、リオンの仲間を助け出すことだ。それだけじゃない、惑星リバイブにとって【ホーム】にいる人間が惑星の未来に価値のあるものだって納得させてみせる。今日が駄目でも、いつか必ず納得させる。それが今の俺の"企み"だよ」
ジャッジはアラムを睨み続けているが、アラムも真剣な眼差しで見つめ返す。互いに視線を逸らさぬままだったが、突然フガクが手を叩く。
「はーいお二人さん、睨み合いはそこまで。とりあえず話をしてみようや。アラム、今のところお前は【ホーム】解放に何の価値があると思っているんだ? 」
「そうだな……まずは俺が調べた【ホーム】に関する情報の資料を配る。リオン、頼む」
「……ああ、これか」
リオンはここへ来る前にアラムから持たされていた荷物を思い出す。補佐役として参加を許可されたリオンは、立ち上がり円卓を回りながら手元の書類端末を配る。アラムが学長の協力を得て天井の巨大モニターに書類端末を接続すると、書類の画像が映し出される。
「まずは【ワイズオウル】に保管されていた文献から。そもそも【ホーム】の隔離は、俺たちの先祖が分裂したことで発生したとされているんだ。
ゼルの利用によりドームがいくつも建て始められるよりも前、ゼルの性質とその利用価値が解明されつつある頃にこの惑星にたどり着いた人類を率いていた人間は二つの勢力に分かれた。この星を発展させる為にゼルの力を使おうとする派閥、そして【ホーム】に隔離されたゼルの力で復讐の為に兵器を作ろうとする派閥だ。
彼らの思想に賛同できない者は多く、隔離というかたちで彼等の思想を悪とみなし閉ざした」
「それくらいは地区代表候補なら知っている。それがこの話に一体どう関係してくる」
「ジャッジ。私はあまり人の発言を遮ることは好きではありません」
「す……すいません! 」
痺れを切らしたジャッジがまたアラムに噛み付くように言葉を遮るが、ここは後ろに座っていたオサに宥められ押し黙る。アラムはそんな2人のやりとりをまるで視界に捉えていないかのように言葉を続けていく。
「何が言いたいかっていうと、悪人とみなされた者はその子孫たちまでに渡ってあの【ホーム】に隔離されてしまっているわけだ。悪人の子が必ずしも悪人という根拠はないし、それは犯罪者として隔離された者たちの子や孫も同様だ。俺は見直すべき点だと考える」
アラムの発言に対して真っ先に反論してくるのは勿論ジャッジだ。
「却下だ。善と悪など目に見えないもの、第三者が簡単に見定められるものでもない。そもそも【ホーム】への悪の隔離は、悪の因子そのものを根底から封印するための策だ。優秀なる先人達の判断だ、見直しの余地などあるはずもない。
そもそも悪人がいること自体ははっきりしているじゃないか、どうやって善と悪を見分けるつもりだ? もしもこちら側に犯罪者たちが流れ込んできた場合どうするつもりなんだ? 」
「それを、この会議で話し合おうぜ」
「ナンセンスだ。そもそも僕は【ホーム】解放に賛同していない。よって、話し合いの余地もない」




