09 アーサーたちの伝説
「まず、シェンザーがフゥと出会ったのはいつ頃の話なんだ? 」
「うーん、そんなに前の話じゃないよ。最近、ドームの外や地下の発掘が進められてるでしょ? 僕はその時発見された古代文明の置物の一つを買い取って研究していた。
そしたら、研究の最中にフゥが中から出てきたんだ。ほら、あれ」
そう言って、研究所の隅に横倒しにして置いてある大きな古びた置物を指さした。ちょうど人一人が中に入って眠れそうなサイズだ。外側には何かの文様が彫られているのが見える。
「後から調べてわかったけど、あれはスリープモードのフゥを外部から守るだけじゃなくて小型のロケットのような機能を備えていることが判ったんだ。
リバイブの書籍を読み漁って、カプセルの壁面に刻まれているのがモールス信号と呼ばれるアースの言語だということがわかった。そこからアーサー搭載用の翻訳プログラムを作ったんだ」
「なるほど……あれと同じカプセルはドームの中や、外の世界にも散らばっているんじゃないかと言われてる。実際、このカプセルを開けるにはモールス信号の電波を解読しなきゃならないから、一般人には開けられないがな」
アラムは小袋の中から古びた数冊の本を持ち出してくる。シェンザーは初めて見る紙でできた本に興味津々だ。
「初めて見たか? この惑星じゃ珍しいもんな。この古文書も、ヨシノたちと一緒にこの星に到達したんだと思う。同じように星中に散らばってる。さて、まずはこいつら【アーサー】とは何者かってことだ」
そうやって丁寧に古文書のページをめくっていく。
「この古文書自体は、俺達と同じ言語で書かれているんだ。アーサー達の製作者は不明だが、俺たちの遠い祖先であることは間違いないと思う。
まず、アーサーとは【Earth-er】。つまりこ【アースの記憶を護る者、アースの復活を果たす者】のことであるとこの古文書には書かれている。
そもそも、彼らが作られたのは俺たちがこの星にいることと大きく関係している。シェンザーはどうしてアースが滅亡したかは知ってるか? 」
「……全世界を巻き込んだ【崩壊の聖戦】ってやつだね」
「そうだ、アース規模の世界戦争は星そのものを壊滅に追い込んだ。俺たち人類は滅びゆくアースを見捨て、それぞれの作った宇宙船に乗って星を飛び出した。その生き残りが俺たちってことになる。アーサー達がこの惑星リバイブに到達したのは俺たちの祖先よりも先、つまり戦争の間から徐々にこの星に送り込まれてたことになる」
「今の時代から見てもこれだけ高度な技術を持ったアーサーを作れる人間が、戦争に関わっていない訳がないよね。ってことは、もともとアースは滅んで捨てられる予定だったってことか」
シェンザーの言葉にアラムは反応しない。怒りを堪えるために唇を強く噛んでいるようにも見える。
アラムはきっと本当にアースが好きなのだろう。だからこそ、アースを滅ぼしてしまった人間たちに対しての怒りは人一倍なのだろう。アラムは深呼吸すると続きを話し始める。
「アーサー達はそれぞれ、この【崩壊の聖戦】以前のアースの自然環境を護っている。この古文書だけでははっきりしないが、恐らく数十体ほどのアーサーが戦争中にアースから打ち出された」
「数十体か……これだけで本当に地球環境を復活させられるのかな? 」
「ああ……恐らく完全再現は不可能だと思う。恐らく開発者は機械専門の科学者、自然分野にそこまで詳しくはないんだと思う」
「なるほどね……素人でも得られる程度の知識でしか再現ができないのか。それに、戦争中に全ての自然環境をデータ化するなんて不可能か。 そういえば、さっきのヨシノの戦闘能力を見ても、環境データとは関連性がないよね。」
「古文書によると【アーサーにはアースの記憶を護るため、私が環境やそれに関する言葉、人間の文化から思いついた武器や能力を備えつけてある。
彼らは全員無事にアースに帰還しなければならない。自らを護るため、また目的を果たすために必要な力を、私の持てる技術すべてを注ぎ込み彼らに与えた。】と書かれている。
アーサーの目的について詳しくは書かれていないが……アースへの帰還、そしてアースの復活というワードに繋がる。それが全てじゃないかもしれないが」
「ちょっとまって。アースの復活が目的だとすれば、アーサーたちがこの星へやってきた理由がわからない」
「そうなんだよ……そこは俺も引っかかる。ヨシノに聞いても、よくわからないって。他のアーサーを探せば、それもわかるかもしれない」
シェンザーはメモを取っていたアラムの話を読み返しながら何かを考えていたが、アラムを待たせてしまっていたことに気づき話を戻した。
「よし、じゃあ次は僕の研究データについて話すよ。フゥと出会ってから長年に渡ってその仕組みを研究してきた。まとめると、フゥの身体を構成するのはアースの記憶を司るメモリーとAI、アースの記憶を再現可能にするためのシステムが埋め込まれたボディ、そして風を収束させて放つ【サイクロン】という特殊な装備だった」
「確かにアーサー達はそれぞれ自分の護るアースの環境を作り出すことが出来る。フゥが風を起こしたり、ヨシノが桜を咲かせたりってやつだな」
「フゥの風やヨシノの【サクラダヨリ】を見ると、アーサーを中心としてその効果範囲が拡大していくように見えるよね。フゥも同じように、自分を中心にして風を起こす。これは他のアーサーたちにも共通することだと思う。
そして、今聞いた話から考えられる仮説が一つ。ヨシノやフゥに搭載されている機能とは別の機能を持ったアーサーがいるのではないかということ」
「別の機能? 例えばどんな? 」
「アースの復活に関する機能。例えばテラフォーミングのための技術が搭載された、アースの記憶を再現するアーサー、とかね」
「なるほど! アースの復活のための機能か。ってことは、この惑星にもアースの環境を再現出来たりするのか!? 」
アラムは今にも飛び跳ねそうなほど目を輝かせて立ち上がった。シェンザーは興奮するアラム落ち着かせるようにして、もう一度座らせる。その時、アラムの腰に下げてある小さな袋が目に入る。
「そう言えば、さっきヨシノに何か食べさせてたよね。あれは一体? 」
「ああ、これか? 」
そう言って、アラムは腰の小袋から小さな飴玉を取り出してシェンザーに渡す。
「これの名称はよくわかんないけど、ヨシノのエネルギー源らしいんだ。桜を咲かせるにはこれがないと駄目なんだよ」
「どうやって作ってるの? 」
「この小さな袋の中で自動生成されてるらしいな。詳しいことはわからんけど」
「なるほど、これも一つ預かっていい?一応調べさせてもらうね。
あ、そうだ。もう一つ重要なのは彼らアーサーも酸素がなければ起動しないということ。アースでの活動を前提に作られているから、彼らを動かすエネルギーは食事や呼吸で外部から常に補充されるように出来ているみたい」
「なるほど、この星に全てのアーサーが到着しているのかはわからないが、この星で酸素があるのは俺達人類が設置した6つのドーム施設だけ。
俺たちの生活圏は星の半分にも満たないから、酸素のない場所でまだ起動できないままのアーサーもいるかもしれないってことか」
「そうだね、たとえばアースの酸素の記憶を護っているだとか、酸素を供給できる能力を持ったアーサーがいれば話は別だけど。その辺は……二人が起きてから聞いてみようか」
フゥとヨシノが目覚めたのは、それから数時間経った後だった。アラムとシェンザーは食事をしながら、改めて話を始めた。