89 集結する代表たち
「あの扉が管理室で間違いないんだよな。ゼク」
そう言ってアスカはゼクを振り返る。ゼクは頷き、古びた端末資料から地図を取り出して見せた。この建物は【ホーム】へやってくるトレインが停留する施設の真上に建てられているビルだ。このビルには【ホーム】を制御•監視する機能が集められており、向こうのドームから黒いトレインに乗ってやってきた罪人ではない人間によってそれらを制御している。
そして彼らがいる階層は地図によるとその人間たちの居住スペースの上の階層にあたる、管理者のフロアになっている。
「あくまでも【ホーム】に出回っている地図だからね。偽者かもしれないけど……どうする、どうする? 」
「まぁ、その時は作戦通り頼むぜ。ゼク」
アスカはそう言うと合図を出した扉の方へと歩いていく。恐らくこの地図は偽者だろうと直感していた。これだけのケービロイドがシステムダウンしているにも関わらず、管理者たちが慌ただしく動き回っている気配がない。
サバクは念の為にフードを被った仲間の老人の方へ、無言で右手を差し出した。フードの男は皺だらけの手でアスカの手を握るようにして重ねる。やがて一粒の何かがアスカの手の中に落ちる。
「やはり……戦は避けられぬようだな」
「作戦通りやれば大丈夫さ。必ず勝てる」
「……ああ。そうだな」
アスカは扉を開けて中へと入っていく。続けてゼクと4人のフードの男達が部屋へと入ってくる。部屋の中は真っ暗だったが、彼らが入るタイミングを見計らったように部屋の照明が灯る。
大部屋を埋め尽くさんばかりのかなりの数の人間が、銃を彼等の方に突きつけている。まるで彼等がこの部屋を狙ってくるのを予測していたようだ。あの地図はやはり、反逆者達をこの部屋へと誘い込む為の罠だったらしい。
無言を貫く彼等に向かって、天井からぶら下げられたモニターに映った1人の男が嘲るように彼等に話しかける。
『反逆者の諸君ンン! 残念でしたぁー、管理室を習ってくるのは想像がついてたが、ここはお前らのような反逆者を迎え撃つための戦闘訓練室だぜ。全員ちゃんと先頭訓練を受けてるんだ、この数相手にお前らが逃げ伸びることはもはや不可能に近ぁぁぁぁい!
もう終わりだ、観念しやがれ罪人どもよっ!!』
アスカは恐らく管理者達のトップであろう男の話には全く耳を貸さずに後ろの仲間達に合図をする。ゼクと3人のフードの男が何かを勢いよく噴射し始める。その液体が部屋じゅうに広がっていく。先ほどの老人がしゃがみ込んで、その水に触れるように手をつく。
「なんだこれ、水か? 」
「この【ホーム】のどこにこんな大量の水が……って、なんだか気持ちいいな」
『うぉい、お前ら! 動揺してないで早く、あいつらを撃てぇぇぇえい! 』
彼等の奇妙な行動を少しの間眺めていたが、彼等は我に返ると銃をアスカに向けて撃ち始めた。しかし、突然アスカを護るようにして何かが天へ向かって伸びてくる。
「なんだあれは!? 」
それはやがて水の中から次々と生えてきて、部屋中がそれの複製で埋め尽くされていく。何人かは足元から突然生えてきた謎の物体に身体ごと吹き飛ばされていく。あっという間に部屋中が生い茂った謎の物体によって埋め尽くされた。モニターも吹っ飛ばされたようで、男の指示ももう届かない。
「初めてみるだろ? アースの【ジャングル】も、生きた木も。流石はミツリンのじっちゃん」
景色に溶け込むようにして走ってくるアスカに、誰も反応することができない。アスカは木の枝や高低差を利用して立体的な軌道で身軽に飛び回りながら、睡眠効果のある銃弾で次々に管理者たちを沈めていく。
「ゼク! 作戦通り頼むぜ! 」
「はいっ、はいはい! ハッキングは終わったよ! さっきのやつの居場所も管理室も見つかった。正しい地図のインストールも始めるよ! 」
「流石はゼクだ、手際がいいな! 」
銃弾を木の影に隠れてかわしながら、今度は腰に下げていた刀を手に取り、接近戦にシフトして次々と敵を斬っていく。数分と経たないうちに殆どの管理者達は倒されていき、残ったものも戦意を失ってしまったようだった。
一息ついていたアスカにゼクが近寄ってきてインストールした地図を持って見せにくる。
「なるほど、管理室はもっと下の方か。とりあえず、おれが先に走って制圧してくるからみんなは後で追いついてよ」
アスカは手に握っていたミツリンから受け取った飴玉をかじる。
「……【刻印】」
遠目ではわからなかったが、近づいてきたフガクはかなり身長が高くアラムの2倍ほどの背丈だった。フガクはしゃがみ込んで2人に目線を合わせるとニッコリと微笑んだ。
アラムにはそのしゃがみ方がヤンキー座りと呼ばれるアースの文化である事を資料で知っていた。ヤンキー座りは惑星リバイブではあまり認知されていない。フガクもきっとアースの文化に詳しいのだろうと、少し親近感が湧いた。
フガクは色彩豊かなど派手な着物の襟元を伸ばし整えながら、2人に話しかける。
「親父から色々と話は聞いてるぜ。それで、どっちがアースから来たロボットさんだい? お前か、それともお前か? 」
フガクは2人の頭を交互に撫で回す。リオンはその手を振り払うとフガクの問いに応えるように一歩前へと踏み出した。
「そうか、お前か! へぇーえ、ぱっと見じゃ全然分かんないもんだなぁ。もっとそうだな……ケービロイドぐらい一目でロボット! って、分かるもんかと思ってたんだがよぉ」
「最初の感想がそれか」
呆れたようなリオンの表情にも、その失礼な態度にもフガクは顔色ひとつ変えることなく笑い続けている。もういちど2人の顔をよーく眺めてから立ち上がると、フガクはアラム達と並んで歩き始めた。
「お前ら、ミスズのこと助けてくれたんだってな。ありがとよ。親父やミスズにも言われてっからよ、とりあえずこの会議では味方だと思ってくれていいぜ」
「本当ですか! ありがとうございます! 」
「いいってことよ。困った時はお互い様さ! ……やべぇ、それじゃあまた会議でな! あばよ! 」
それだけ言うとフガクは先に歩いて行ったエンノスケを追いかけるように慌てて走り始めた。エンノスケとフガクは元々この罪人に対しての処罰に違和感を抱いていたようだし、サバクの事があってからはこの地区代表会議で掛け合ってくれようともしていた。アラムの考えたサバク救出作戦にも力を貸してくれる心強い味方だ。会議にすこし不安もあったが、フガクの温かい掌のおかげでアラムもリオンもいつの間にか緊張はほぐれていた。
「……よし。必ずサバクを助け出そうぜ、リオン」
「当たり前だろ、勢いつけて一気にアース復活だぜ」
惑星庁の大会議室は薄暗く、その天井は大きなディスプレイになっており惑星の外の世界を映し出しているようだった。惑星間を航行する貿易用の宇宙船の光がいくつも確認できる。まるで宇宙のど真ん中に立っているような、そんな感覚になる。
アラムは学長に促されるように、リオンと並んで学長の背後に備えつけられた席に座る。横長な円卓を囲むようにして地区代表達が座っており、アラムはその面々を順に眺めていく。
【ワイズオウル】の地区代表である学長コウゾウの右隣には【メカニカルフォックス】の地区代表カゲツとジュノ、左隣に座っているのは【パラダイスモンキー】の地区代表エンノスケだ。
「げっ、あいつは……」
何か視線を感じて向かいの席を見ると見た事のあるスーツの男が座っている。向かいの左端の席から睨むような視線を送っていたのは以前会ったことのある【ストームイーグル】の地区代表ゲインだ。
アラムは気づかないフリをして隣に座っている人達の顔ぶれを見ていく。向かいの中央に座っているのは【スペースゲート】の地区代表ワタリ、そして右端に座っているのはここ【キャピタルドーム】の地区代表で唯一女性の地区代表、オサだ。
円卓の両端には一つずつ小さめのモニターが設置されている。学長に確認したが、過去にこんな設備を入れての地区代表会議はなかったらしい。
「あそこには普段【ホーム】の地区代表、という管理者の男が座っていたのだが。今日は出席しないようだな」
コウゾウが小声でアラムにそう教えてくれた。静まり返った空気の中、ついにオサが喋り始める。




