86 【リトルアース】
「うぉいっ、リオン! こんなところにいたのかよ。どっかへ移動するならちゃんと伝えてからいけよ、全く! 心配するだろ! 」
リオンがいたのは入口近くの宇宙船のある展示室、その一角に置かれた例の薄い青色の箱の前だった。リオンは無言のまま、珍しく真剣な眼差しでその箱を見つめていた。
「おお、遅かったな2人とも」
「遅かったな、じゃねえよ!全くもう……」
リオンは2人の存在に気づくと突然にこやかになって手を振ってくる。アラムは思わず力が抜けて肩を落とす。2人がそんなやり取りをしている間、ジュノもこの箱について気になったのか解説文に近づいて読み始めていた。
「……この箱の名称は【リトルアース】、あの宇宙船に組み込まれていた酸素を産む箱らしいでありますです。この箱の開け方がわからないためその仕組みは分かりませんが、どうやら今も常に新鮮な空気を生み出しているらしいでありますです。
宇宙船内部の酸素を満たすためにアースの人々によって造られたものらしいでありますですが、惑星リバイブに不時着した後にはこの箱は【ストームイーグル】の動力源として使われていたらしくかなりの年月が経った今でも新鮮な空気を産み出し続けているらしいでありますです」
「今もなお壊れることなく稼働しているのか、それはすごいな。でも確かにこの辺はなんだか空気が新鮮な気がしなくもない……かも」
アラムは青い箱に近づいて深く深呼吸をしてみる。ジュノもアラムの様子を見て、真似をするように深く息を吸い込んでいる。
アラムには実際外の空気と何が違うのかはあまりわからなかったが、言われてみれば少しいい気持ち……なのかもしれない。ジュノと目が合うが、お互いに首を傾げて苦笑いする。空気がおいしい、というアースの人々の感性は、きっとこの惑星リバイブのドームで生きている者たちには到底理解し得ない感情なのかもしれない。
「って、リオン!?」
少し目を離した隙にリオンの姿が見当たらなくなっている。思わずアラムが上げた叫び声にジュノは表情をこわばらせびくっと身体をはねさせる。リオンを探してキョロキョロと周りを見渡すアラムを見てジュノもすぐにリオンの姿を探す。
少し遠くに歩いているリオンのすがたが見えて、2人は慌てて走り出す。
「 あぶねぇ、また見失うところだったぜ。今度はどこ行くんだよ! 勝手に動き回りやがって! 」
「どこって、俺たち他にも回らなきゃいけない場所あるだろ? 一通り中は見れたし、次行くぞ次! 」
リオンは出口の方へ向かって歩いて行くところだった。アラムは頭を抱えたが、しかし今日の目的はただの観光だけではない。アラムはジュノの方を向くと申し訳なさそうに挨拶をする。
「ジュノ、ごめん! とりあえずあいつを追いかけるよ。そうだ、折角だから連絡先交換しようぜ……これでよし、と。
また色々誘ってくれよな! それじゃ、今日は色々ありがとな」
そう言ってジュノに携帯電話を取り出させて急ぎで電話番号を交換すると、軽く握手をしてからアラムはリオンを追って博物館を出て行った。ジュノは突然の出来事にしばらくぽかんとしていたが、自分の携帯電話に表示されるアラムの番号を見て少し嬉しそうな顔をした。
「アラムとリオン……面白い人達でありますです」
博物館を出てきたアラムとリオンは、ホログラムの滝に囲まれている外側の敷地をうろうろと歩き回っていた。リオンはアラムが追いついたときからずっと、敷地の地面の隅々を注意深く見ていた。ドウクツの能力による穴がこの【キャピタルドーム】にあるかどうかを探るためだった。
リオンとアラムの目的の一つはドウクツが関与しているアーサーの組織達の情報を探ることにあった。
「こんな人通りの多い場所には流石になかったか、あんな大穴。今までのパターンから見ても、この場所ならあり得ると思ったけど」
「確かドウクツの能力じゃあドームの床は穴を開けられないんだっけ? 【ミザルの湯】では貯水タンクがある地下室がドームの床より下にあったから出来た事だし……このドームにはそう言う場所ないのかな? 」
「まぁ、実際に行ってみないと分かんないでしょ。ああやってアーサーたちが主要施設に忍び込んで悪さをしないように、主要施設の周辺だけでもこの目で確かめておかないと」




