73 ドウクツの戦術
フゥは足音を立てながら歩みを止めることなく近づいてくる。まだ倒れたままのドウクツを庇いながら立つシェンザーは、震えながらもそこから動こうとはしない。ユーシアはドウクツの様子を見ていたが、動けない二人からフゥを遠ざけるるためにフゥに向かって決死の覚悟で突撃する。
「俺が皆を……絶対に守るッス! もうこんな事は止めるっスよ、フゥ!! 」
ユーシアの【ブーストボード】は加速していく。2人の周りにはたちまち砂煙が発生し、シェンザーからは二人の様子が見えなくなる。シェンザーは思わず両腕で顔を覆う。
砂煙の中でガキン、と金属同士がぶつかり合うような音が響いた。シェンザーは状況を確認するように叫ぶ。
「ねぇ……大丈夫なの!? ユーシア、返事をしてくれ! 」
シェンザーの真横を何かが飛んでいく。直後、とてつもない勢いの風が正面から吹き、思わずよろける。強風のおかげで砂煙は晴れ、視界が開ける。そこに立っていたのはフゥだけだった。
シェンザーは恐る恐る振り返る。先程シェンザーの横を吹き飛んでいったのはユーシアだった。自分たちが滑り降りてきた砂の斜面まで吹き飛ばされ、身体がめり込むくらいに叩きつけられている。
しかしフゥは、少し反動で後ろに押されてはいるものの、目立った傷は一つもない。吹き飛んだユーシアは意にも介さない様子で、今度はまたシェンザーの方を見つめる。
サンディナで鍛え上げられた強靭な肉体を持ち、過酷な自然を生き抜いていた経験もあるユーシアでさえ恐怖を抱く竜巻。その恐るべき力を秘めたフゥの前では、自分の培ってきた全てがどれ一つとして通用しないような、初めて味わう絶望感がシェンザーを包み込んでいく。
「もう……駄目なのか? 」
「……まだ諦めんな」
シェンザーが諦め膝をつこうとした時、背後に横たわったままのドウクツが微動だにせず静かに呟く。
「そのままの姿勢を崩さないで……あいつの気を引いて。
あいつは力を使い過ぎた。俺達が生き残るにはあいつの時間切れを狙うんだ。俺がやるから……お前はそのまま。怪しまれないように……疑われないように……」
シェンザーはゴクリと唾を飲み込む。圧倒的な恐怖を前に、足が震えて立ち続けることさえ難しい。そもそもドウクツは人間の味方ではないアーサーだ、信用できるのかどうかもわからない。
「大丈夫……フゥを助けるんでしょ? 俺は人間の味方じゃないけど、アーサーは味方だ。やれるだけやって見るから俺を信じろ」
ドウクツの小さな囁きがシェンザーの決意を固める。目の前にはフゥが立ち、固定されたような微笑みのままシェンザーの顔を覗き込むようにして見上げている。ゆっくりと両手を上げ、風を纏いながらシェンザーの首元に掴みかかるように手をのばす。
ドウクツは溜息を吐くと寝転がったまま足を上げ、地面にかかとを叩きつける。突然、ドカンと大きな音が鳴り響きフゥの足元の砂の地面に人一人分の大きさの穴が開く。
不意の一撃にフゥは抵抗することもできず首元まですっぽりとハマり込んでしまう。伸ばした両手は穴の外に出ていたが、穴から出ようともがけばもがくほど周りの砂がどんどん穴の中へと流れ込んでいく。暴れるように身体を動かし続けるがアーサー自身の重みに砂の重みが加わり、フゥの細い腕では持ち上げることができない。
シェンザーは自分が助かったことに安堵しその場に力なく座り込む。【ミザルの湯】の地下に作られていたあの大穴と同様に、空洞を作るのがドウクツの能力らしい。
シェンザーはしばらく呆然としていたが、自分の身体の下に横たわったドウクツの足がある事に気づき慌てて横にずれる。ドウクツは気だるそうに立ち上がるとシェンザーや、倒れ込む他の皆を一瞥してから歩きだした。
「……掘り出すのはそっちでやってよ。疲れたから、もう帰る。……あ、アーサーの皆にはまた来るよって言っといてね」
「え? それってどういう……ちょ、待ってよ! 」
シェンザーが呼び止めるのも虚しくドウクツはいつの間にか新たに作られていた大きな穴へと飛び降りていった。シェンザーも慌てて追おうとしたが、穴はすぐに砂が流れ込み閉ざされてしまった。




