72 アーサーの暴走
ユーシアは倒れ込んでいるスイとキオンに近寄ろうとして立ち止まる。こちらを振り返ったフゥから感じる威圧感が、いつものフゥとは違った。その両目は赤黒く爛々と光り、普段と変わらぬ微笑みの中に乱暴な、それでいて研ぎ澄まされたような気配を感じる。
ユーシアの不安を他所に、フゥは倒れ込んでいる二人を通り過ぎてゆっくりと近づいてくる。そのとき、シェンザーが砂の斜面を駆け下りて来た速度のままユーシアを通り越してフゥの前に倒れ込んだ。
「痛いっ! なんて……なんて難しいんだ。加速してくると操縦が上手くいかないや、僕の運動音痴なとこを差し引いてもまだまだ改良の余地ありだな。
……ってそれどころじゃなかった。……フゥ! 大丈夫だった? 一体何があったのさ、今度は何に巻き込まれたんだい? 」
砂に埋まった身体を起こしフゥの姿を視界に捉えると、シェンザーは両足の砂を払いながらフゥの前に立ち上がる。その笑顔はまるでフゥの異常に気づく素振りもない。
フゥはシェンザーにゆっくりと近づくと拳を握り構える。ユーシアは一部始終を見ていたが、慌てて叫ぶ。
「シェンザーさん、危ないッス! 早くそこを離れて! 」
シェンザーはユーシアの声を聞き、フゥに背を向けユーシアの方を振り返る。ユーシアもシェンザーを助けようと動き出すが間に合わない。フゥは構えた拳をシェンザーの後頭部めがけて思い切り突き出した。
その拳はそのままシェンザーの後頭部に直撃するかに思えたが、間一髪で何者かが間に割って入る。シェンザーは何が起こったのかわからぬまま姿勢を崩すが、ユーシアが【ブーストボード】を一気に加速させて近づくと、シェンザーをフゥから少し引き離す。
「わわわっ、一体何が起きたの!? 」
「フゥが殴りかかろうとしたのを、あの人が止めてくれたッス……あれは誰なんッスかね、まさか知り合いッスか? 」
殴りかかったフゥの拳を受け止め、真っ向から衝突しているその姿にシェンザーは見覚えがあった。
「……あいつ、見たことあるよ。地下の貯水タンクの部屋にいたアーサーだ。確か……ドウクツって名前だ」
「ええ! あいつがタンクのお湯を奪った奴なんッスか? でもどうしてこんなところに……それになんでシェンザーさんをを助けてくれたんッスかね」
フゥとドウクツはしばらくの間動かなかったが、フウが受け止められた拳を引くと間髪入れずにドウクツの顔面に叩き込む。 拳はフゥが産み出した風を纏っており、拳を叩き込まれたドウクツはアラム達の方へと吹き飛ばされる。
「わわわっ、大丈夫なの!? 」
「痛って……ああ、もう。だから戦いとかしたくないんだよ」
ドウクツは顔を押さえながら呟く。痛みを堪えながら倒れ込んだままのドウクツにアラムとユーシアは駆け寄る。シェンザーがフゥの前に、ドウクツを庇うように手を広げて立つ。
「やめときなよ。今のそいつはフゥじゃない。あんたじゃ何も出来ないよ」
「そんなの……やって見なくちゃわかんないよ」
「俺にはわかるんだよ。それが俺たちアーサーの護るアースの記憶の中にある、人間が感じたた自然の恐ろしさってやつなんだよ。
……お前達もさっきの竜巻を見ただろ、今のそいつは暴走してる、まるで【自然災害】そのものだ。悪意も欲望も損得勘定もなく、ただ発生し消滅する。何かを壊し奪おうとも、そこには善悪などない。人間やアーサーとは違う、アースの姿だよ。
……ここはいいからはやく逃げなよ。君ら、本当にどうなるかわかんないよ」
ドウクツの静止も聞かずシェンザーは動こうともしない。フゥは表情をぴくりとも変えない。まるで何も感じていないようにシェンザーを見つめ返すその眼は、確かにフゥではなかった。それでもシェンザーには逃げ出すという選択肢はなかった。
「もう……やめてくれ。誰も傷つけちゃ駄目だ、何も壊しちゃ駄目だ。頼む……頼むよ、フウっ!! 元に戻ってくれ! 」




