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追憶のEarth-er  作者: だーぎー
71/370

71 渦巻く風

 突然【ミザルの湯】に響き渡る轟音に3人は会話を止めて振り返る。視線の先はオアシスの向こう、シェンザーが開発した【ブーストボード】の会場として作られたお椀型の砂地の窪みの方だ。

 

 そこには渦を巻きながら唸る灰色の柱が空高く上がっており、ドームの天井付近に浮かぶ灰色の塊からは細かな水の粒が地面に向かって流れ落ちているように見える。よく見るとあの一帯を中心にドームの照明を遮るような灰色の何かがまるで生き物のように蠢いている。


「な、なんでここであれが……早く歌姫さんを避難させるッス! 」

「ど、どうしたの!? ユーシア、あれがなにか知っているの!? 」


「……あれは【タツマキ】ッス。サンディナでもたまに起きる、渦巻く風の柱みたいなものッス。近くにいる生物も植物も建物も、あれが通った道には何一つ残らないッス……巻き込まれると自分たちなんてひとたまりもないッスよ! 」


 あのユーシアが何もかもを捨てて、慌てて逃げ出そうとする様子にシェンザーも恐ろしくなって立ち上がる。ユーシアはサーズ・デイに近寄ってその手を引くが、歌姫はなんと目の前の竜巻に見惚れているようで、そこから動こうとしない。


「うふふ……凄いわねぇ。なんて勢い……力強さ……建物も人も私達のことも……全てを飲み込み、いとも容易くバラバラにしてしまいそうな冷ややかな恐ろしさ……いい曲のアイデアが浮かびそうだわぁ……」

「ちょ、こんな時に作曲始めちゃ駄目っすよ! とにかく早くここから逃げないと巻き込まれて大変なことに………」


 焦りながら大声で二人を急かすユーシアの背後で、突然【タツマキ】は四散する。まるで何事もなかったかのように【タツマキ】はあっという間消滅してしまう。しかし空に漂う灰色の塊が、目の前で起こった事が確かに現実であると告げているようだった。


 ユーシアは水際までふらふらと歩み寄り、眼の前で起きた未知の出来事に呆然としていた。サーズ・デイは二人の事など意にも介さずに作曲を続けている。

 

「……ねえ」


 シェンザーは嫌な予感がして、オアシスの側で立ち尽くしているユーシアに呼びかける。ユーシアはハッとした様子で振り返り慌てて返事をする。


「す、すいませんッス。聞いてなかったッス……何て言ったッスか? 」

「あのさ、あそこって確かフゥとスイ、キオンが【ブーストボード】して遊んでたんだよね。もしかして今の……」

 

 シェンザーの言葉をすぐに理解したようで、ユーシアの顔がどんどん青ざめていく。シェンザーはユーシアの腕を掴むと振り返ってサーズ・デイに向かって叫ぶ。


「あの、ごめんなさい! 施設を案内したかったけどまずは何が起こったのか確かめてきます。危険だからあなたはここを動かないで。すぐにミスズという職員がここに来ますから」


 サーズ・デイは作曲に集中しており聞いているかどうか分からなかったが、あれだけ集中していればここから動くことはなさそうだ。ユーシアとシェンザーは走って目的地へと向かった。




 近づくにつれ何だかひんやりとした空気が漂ってくる。足元の砂地はぐっしゃりと濡れており、でこぼこした足場に小さな水溜りがいくつもできている。ドーム上空には灰色の何かがもやもやと漂っていたのだが、異常を感知したドームの空調設備によってドームの外へと排除されると徐々に元に戻っていった。


 この付近を整備してくれた職員たちは既にこの場所から避難していたらしく、数機の【ブーストボード】が地面に置かれたままになっている。シェンザーとユーシアはすぐさまそれを装着し、全速力で砂の坂を駆け上がる。


 坂を登り跳ね上がると、中の様子が確認できる。外の水溜りの様子から中の窪みにもかなりの水が溜まっているのだろうと予想していたが、意外にも中にはほとんど水が残っていなかった。何故か砂の地面にいくつか空いた穴からどこかへ流れ出たようだった。


「キオン、スイ、フゥ! みんな大丈夫ッスか!? 」


 ユーシアは一足先に穴の中心へと滑り降りる。キオンとスイは意識を失って倒れており、からだはずぶ濡れだった。フゥだけは、倒れ込む二人のそばで立ち尽くしていた。


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