70 歌姫との時間
『はーいもしもし、こちらミスズですけどぉ。シェンザーさん、一体何なんですかぁ、こんな時にぃ!? 今ちょっと立て込んでますんで後で大丈夫ですかねぇー!? 』
電話越しのミスズはシェンザーの予想通りかなり慌てているようだった。シェンザーは大急ぎで通話を終了しようとするミスズをなんとか静止して話をする。
「ちょ、ちょっと待って。もしかしてなんだけど……歌姫サーズ・デイを探してたりする? 」
『ふぇ!? シェンザーさん、どうしてそのこと知ってるんですかぁ!? 』
ミスズのあまりの大声に、電話をしていたシェンザーだけでなく近くにいたユーシアやサーズ・デイまで顔をしかめている。シェンザーは不意打ちの叫び声にくらくらする頭を抑えながら端的にミスズに説明する。
『そういうことでしたかぁ……と、とにかくそっち行きますから! 私が行くまでそこで待っててください! 』
ミスズが大慌てで電話を切ると、たちまちオアシスは静かな安らぎを取り戻した。こんなにもオアシスの水のせせらぎが気持ち良く聞こえた日はない。ミスズの指示通り3人は湖付近で待機しながら円になって、今度はサーズ・デイも一緒に昼食をとることにした。
ユーシアが屋台を借りて作ってくれたサンディナの郷土料理を食べ終えるとサーズ・デイはゆっくりと座り直し二人に囁く。
「この景色と美味しい料理、本当に素晴らしいですわね……インスピレーションが刺激されます。実は明後日私のライブがあるんですのよ、良いメロディーを思いついたので、少しだけお仕事してもよろしいですか? 」
彼女の周りをぐるりと囲むようにして、半円状の鍵盤楽器のようなものが大、中、小と3つ浮かび上がる。彼女はその楽器を慣れた手つきで演奏し始める。
「すごい、突然現れたッス……これ、歌姫さんが使ってる楽器ッスか? 綺麗な音色ッス」
「ふふふ、そうでしょう? 特注品ですの。ただ楽器とはいっても私が思いついたメロディーを一度演奏して、後は音を重ねて保存するだけなの。
機能としては録音機とか作曲ソフトでもいいのだけれど、こうすれば……自動演奏にして上の鍵盤でその日の気分でアドリブを入れられますの。それにほら……こんな機能もありますの、これなら視覚的にも楽しめるでしょう? 」
彼女が弾いた旋律が記憶され、今度は同じメロディーが自動で演奏される。その演奏に合わせて彼女の周りに飛び散るように、音符や音楽記号の立体映像が浮かび上がる。
シェンザーは彼女の作曲風景をじっくりと観察しながら、興奮したように鼻息荒くまくしたてる。
「すごい、音楽に合わせて立体映像が……! あのあのっ、これってこの惑星の技術じゃないですよね。もしかして歌姫さんは、どこか高度な技術を持った惑星からいらっしゃったんですか? 」
「ふふふ……ええ、そうよ。実は私、ここじゃない惑星から来たの」
「そーなんッスか!! じゃあ自分と一緒ッスね。自分も惑星サンディナから惑星リバイブへ留学に来てるんッスよ! 」
ご飯を食べながら会話し笑い合う、至って平和な日常的光景。しかし、次の瞬間3人を襲ったのは荒ぶる風と突然の轟音だった。




