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追憶のEarth-er  作者: だーぎー
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07 ヨシノのさらなる能力

「何故……何故君がそこにいる」


 吹き飛ばされ、落下したはずの少女が背後に現れた。予想していなかった状況に驚くゲインとは裏腹に、シェンザーはおおよそ今の状況を推察しながら紐解いていく。


 シェンザーはゲインの知らない彼女の能力について2つ知っている。その1つは【サクラダヨリ】。彼女が舞い散らす花弁を伝播して信号を送信できる能力だ。

 アラ厶は先程【イデヨトモダチ】発動時にヨシノから舞い散った桜を数枚握っておいた。

 【サクラダヨリ】は花弁を経由してアーサーたちに信号を送る能力だ。あの強風の中で、その手の中に握りしめた桜の花弁からモールス信号を発信することにより、ヨシノへと作戦を伝達したと考えられる。


 そして、その作戦に使用したのが2つ目の能力。これは初めてシェンザーが【サクラダヨリ】を目にした時に見た、ヨシノが備えている飛行能力である。

 強風に吹き飛ばされ、落下したように見えたヨシノは元々の飛行能力で、ビルの反対側へと回り込んだ。

 アラムが無闇に風に逆らいながら歩き続けていたのも、全方向に放たれていた強風を自分の方へと向けさせるためだ。しゃがみ込んだタイミングでヨシノにモールス信号でさらなる指示を出し、さらに手のひらから花弁を飛ばすことで視線を誘導し、フゥをケービロイドから引き剥がし助け出した。


 ゲインは状況が飲み込めないままあ然としていたが、ヨシノがフゥを抱えてフラフラと飛んでくるのを見て二人の方へ駆け出した。

「ヨシノ、危ない! 」

 アラムは慌てて走り出すと、小袋の飴玉を今度は自分自身で口に含み飲み込んだ。 

 ゲインは我を忘れたように、ベンディングシステムをヨシノの方へと向ける。フゥを抱えたままの状態ではその手を避けることはできない。ヨシノは恐怖で目を瞑る。

 直後、ゲインの身体が宙を舞った。アラムの背後からの突進によって吹き飛ばされたのだ。 


「おい、大丈夫か! 」

「あ……アラムぅぅーー!! 怖かったよぉおおおおお」


「うわ、ちょっと待て! しがみつくのは後にして、まずはこの場をどうにかしなくっちゃ」


 あまりの恐怖にヨシノは泣きながらアラムにすがりつくが、吹き飛ばされたゲインが起き上がろうとしている様子を視界に捉えた。慌ててヨシノを引き剥がし、二人を守るように立つ。


「ヨシノ、【刻印】頼む」

「任せて、アラム! 【刻印・ミダレザクラ】! 」 


 アラムの身体が桜色に光り始める。徐々に何かの模様が右半身に浮かび上がってくる。その身体からは、まるでヨシノのように桜の花弁が舞い始める。アラムは準備運動を始めたかと思うと、一気に踏み込んで間合いを詰めていた。

 ゲインも即座に反応し、ベンディングシステムを起動し手を突き出す。しかしアラムはさらに加速し、しゃがみ込んでゲインの腕を薙ぎ払った後、下腹部へと容赦ない蹴りを入れる。 


「ぐはあっ!! 」

 ゲインは痛みを堪えながら、アラムの方を見る。その身体つきは先程よりも少し筋肉質になっているように見えた。いや、それどころか徐々に大きくなり続けているようにも見える。


「まだまだ行くぜ! 」

ゲインはよろめきながらも、近くに刺さっていた刀を抜き取り振り回す。アラムはすんでのところで身をかわし続ける。


「危なっ! マジで殺す気かよ! 」

アラムも近くに刺さっている刀を引っこ抜くと、ゲインが乱暴に振り回す刀を上手く受け流していく。吹き荒れる桜吹雪の中で、アラムの動きはどんどん加速していく。最初はゲインの勢いに防戦一方だったが、徐々にアラムの刀技にゲインが翻弄されはじめる。

 アラムがゲインの刀を腕ごと上に弾きあげる。ゲインが体制を崩した一瞬の隙をついて、ゲインのスーツの裾目掛けて刀を突き立てる。刀はスーツを巻き込んで地面に刺さり、ゲインは倒れこむ。


「制限時間いっぱいだ、そろそろ終わりにするぞ」

花弁がアラムの勢いに乗って、背後へと流れていく。

 ゲインはベンディングシステムを起動するが、アラムの速さについていくことができず、虚しく空を弾いた。

「それ、なかなか便利そうだな」

ニヤニヤしながらアラムが伸ばした右腕を掴み、ベンディングシステムごとアラムの方を向ける。


「起動したらまずいんじゃないの? 」

「な……卑怯ですよ! 早くその手を離しなさい! 」

「いや、卑怯って……お前が言うな」


右手を抑えたままゲインの顔面をグーで殴りつける。気を失ったゲインからベンディングシステムをこっそり頂くとヨシノとシェンザーの方を振り返る。二人はいつの間にか合流して、フゥを抱え上げていた。


「今のもヨシノの能力なの? 」


「おう、【刻印・ミダレザクラ】。かっこよかっただろ? アースにはイレズミって文化があったらしくてな、それを基にデザインされた能力らしい。古文書に書いてあった」


「一時的に身体能力が強化されるみたいだったね。後であの飴玉も調べさせてね」 


 気絶したままのゲインを抱えて、壁にもたれかかるように座らせておく。安心感からか、それとも能力の副作用か、身体をどっと疲れが襲ってくる。しかし、まだここは敵の本拠地なのだ。安心はできない。 

 疲れを吹き飛ばすように自分の頬を叩くアラムにシェンザーは顔を近づけて言った。


「ヨシノ、アラム。能力のこと以外にも気になることはたっくさんあるんだ。後でじっくり聞かせてもらうからね、二人のこと」

「ああ、情報交換はこちらも望むところだからな。まぁ、まずはここを出ようぜ」


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