66 アラムの過去
「おーい、いい加減元気出せってばー……いつまでもウジウジしやがってさ」
【ワイズオウル】にあるアース学研究所に到着するなり、アラムはベッドに倒れ込み動かなくなってしまった。よほど彼女のコンサートに行きたかったのだろう、リオンもヨシノに頬を叩かれた時のショックを知っているので、少しやりすぎたかなと反省していた。
「わかった……科学者の奴に電話して来月以降でコンサートの予約をまたしといてもらうからさ。それで機嫌直せよ、早く準備しないと」
リオンの一言でアラムがムクリと身体を起こし笑顔になる。心なしか目がウルウルしているようで、よほどショックを受けていたことがうかがえる。
「そっか……別に今回のコンサートが最後のチャンスってわけじゃないもんな。うん……そうだ、まずはサバクを助け出すんだ。アースを復活させるためにも、あいつの存在が必要なんだよな」
アラムは解決策を提示されたことでかなり安心したようで、ベッドから立ち上がり気合を入れ直すように叫ぶ。
「なぁ、考古学者。お前はなんでそんなにアースが好きになったんだ? 言ってみりゃ故郷ってわけでもないし、大好きな歌姫のコンサートより優先するほど好きになったのはなんで? 」
「それはヨシノの話、というかあの頃はまだ喋れなかったんだよな。とにかくヨシノのモールス信号を聞いてからだよ。今の俺のすべては、初めて出会ったあの時ヨシノがくれたものなんだ」
そう言うとアラムは学生時代から肌身離さず持ち歩いている電子ノートをリオンの座っている隣のベッドに投げ渡した。
リオンは興味津々で電子ノートを開く。恐らく【ワイズオウル超高等学院】での授業と思われるメモ、それからヨシノの発したモールス信号のメモと解読のメモなんかもあった。楽しそうなリオンを見つめながらアラムはベッドに座り直し、自分のことを話し始めた。
「俺がヨシノと出会ったのは1年くらい前のまだ学生だった頃だ。父さ……学長が考古学専門の学者を中心とした惑星リバイブ探索チームに俺は参加したんだ。探索チームはこの生活圏から離れた未開の土地を専用の車両に乗って巡りながら所々でゼル製の小さな仮設ドームを展開し、発掘作業をして回った。
まぁリバイブ探索とはいっても、学長の関心があったのはアースから人間の乗ってきたロケット以外にも流れ着いたものだ。つまりお前たちアーサーのことだな」
「学長は知ってたのか、アーサーのこと。一体どうして? 」
「ヒョウガだよ。あいつは既にカプセルのまま発見されて、学長の元にいたんだ。俺がヒョウガと出会ったのは、ヨシノと出会ってからの話になるけどな。
とにかくその探索チームはすぐに一つのカプセルを見つけ出したんだ。そして、ヨシノを目覚めさせるあの事件が起こった」
アラムは語り始めた時と同じ、うっすら微笑みを浮かべた表情のままだった。それでもリオンには部屋の空気が一変して重苦しくなったように感じた。時の流れが遅くなったような錯覚に陥るほど。
「その日の夜、探索チームに所属していた男が裏切ってカプセルを盗もうとしたんだ。その日まで、俺の親友だったアスカってやつだ。
俺とアスカは探索中に、カプセルとは別の場所に吹き飛ばされていたモールス信号解読のための古文書を拾ったんだ。そいつは古文書を研究チームには見せずに俺たち二人で学ぶことを望んだ。俺は反対したが奴は言うことを聞かなかった。
俺とアスカは調査を無断欠席した。モールス信号を数日かけて完全に使いこなせるようになった。でも俺はやっぱり探索チームにモールス信号の解読の話をすべきだと思っていたんだ。
俺はアスカと一緒に探索チームに戻るとモールス信号という暗号の話をした。でもな……アスカは俺の話が全てデタラメで、この数日は二人一緒にサボっていたと言いやがったんだ。
勿論俺達はチームから外されることになる。当然だ。俺が道楽息子と呼ばれ馬鹿にされるようになったのもこの日からだ。俺とそいつはその日のうちに荷物をまとめて家に帰れと命令が下った。二度とここへ戻るチャンスはないことを知り、アスカはその日の夜に決行することにしたんだ。ヨシノが入ったカプセルの奪取を」




