62 償いと使命
「罪を……償いたい、か」
サバクの言葉にその場は静まり返る。アラムは黙ってサバクに近寄ると彼の両腕を強く掴んで訴えかけた。
「サバク……アースを本当に救いたいのなら、それだけは止めろ。絶対に駄目だ」
アラムのそのあまりに必死な形相に、サバクは思わずたじろぐ。先程の戦いでもこんな顔は一度だってしなかった。困惑するサバクにエンノスケが近づき、簡単に説明する。
「今現在この惑星リバイブにはなぁ、罪人を裁く法はたった一つしかねぇんだよ。それは、流刑だ。
俺達が生活している6つのドーム……その他にもう一つ、【惑星の反対側に孤立した【ホーム】と呼ばれる小さなドームがある。【ホーム】ってのは、アースからやってきた人間たちが最初に暮らしていたドームだ。罪人たちは一生をそこに隔離されて暮らすことになるんだ。罪を償うとか反省するとか、そんな理屈はこの惑星じゃ通用しねえのよ」
現行犯逮捕、またはドームの人間による多数決で罪人と認められた者はそのに隔離されてこのドームには一生戻ってくることはできない。そうやって、惑星リバイブは善良な市民の中から悪の芽を選別し、排除してきた。あの場所へ向かったら最後、二度とこの地に踏み入れることは許されない。それが惑星リバイブのルールだ。
「サバク、お前には使命があるだろ。この国で裁かれるということはその使命を放棄することと同じだ。頼む、その選択は止めるんだ」
アラムは真剣な顔でサバクに言い聞かせる。この惑星の歪んだ秩序の恐ろしさに関しては、彼自身が身に沁みてよくわかっているつもりだった。
サバクは一瞬悲しそうな顔をしたが、アラムの腕を振り払うとその両手を掴んで握り強く言う。
「うん……使命を放棄するつもりはない。でも……サバクは、今のままじゃきっと……サバクはアースを、救えない」
「なんで……なんでだよ。お前はこの場所を作るのだって頑張って手伝ってくれたじゃないか」
「ごめん……でも、決めたこと。ちゃんと罪を償ったら……絶対に、戻ってくる」
アラムはサバクの真剣な眼差しに言葉を失ったかと思うと、取り乱したように頭を振りその場にへたり込む。エンノスケは黙って二人のことを見つめていたが、サバクに近づいていく。
「ねえ、パパ……本当にこれでいいの? 」
ミスズが俯きながらエンノスケの袖を掴む。あの日、ミスズがサバクに対して言ったことは紛れもない本心だ。後悔もしていない。しかしそれは彼の使命を邪魔するためのものではない。あの騒動から先、共にこの場所を作り上げた仲間であることも間違いはない。
エンノスケは今にも泣き出しそうなミスズの両肩を掴み、しゃがみ込んで話しかける。
「……近いうちに、六人の地区代表が集まる惑星会議がある。可能性は低いが、そこで法の改正を進言してみる。昔から疑問ではあったんじゃ、過ちを犯した者に二度とチャンスを与えられない今のルールにはな……俺がなんとかしてみる。法の改正がいつになるかわからんが……」
そう言うとエンノスケはサバクの方へと歩いていく。真剣な、曇のない眼差しを見つめたエンノスケは再度彼に問いかける。
「なぁ、サバクよ。己の罪を償い、この場に必ず戻ってくるという覚悟はあるんじゃな? 」
サバクは黙って深く頷く。エンノスケは観念したように目を瞑り頷くと、入口の方へと歩いていく。サバクもそれに続いて歩き出した。まだへたり込んだままのアラムにそっと呟く。
「それじゃ……行ってきます」
アラムは顔をゆっくりと上げる。砂埃の中、エンノスケに連れられて去っていくサバクの後ろ姿をアラムは見つめることしか出来なかった。




