61 サバクの想い
「………綺麗。アースも……こんな感じだったのかな」
特別に整備された【ミザルの湯】上空のドーム照明が真っ赤に光り、サンディナやアースの夕暮れを再現する。オアシスの水面の輝きも赤みを帯び、その美しさはまた違った顔を見せる。
サバクは美しきオアシスの水際に座りながら、長い時間煌めく水面を眺めていた。サバクはアーサーの中でも比較的産まれが遅く、動き出した頃にはアースの大半は生命が住まうことが出来ないほどの状況だった。そのため、アースの自然というものを自身の目で見る機会はほとんどなかった。本物のアースじゃなくても、この風景は素直に美しいと思えた。人間とアーサーの力を結集すれば……変えられるかもしれない、そう思い始めていた。
敷地のあちこちから楽しそうな声がオアシスまで聞こえてくる。サバクによって砂に埋もれ、廃れてしまった【ミザルの湯】はこの星の人間たちや彼らと手を組むアーサーたちによって人々がまた楽しむための場所として再建されたのだ。そして今日はその開館初日だ。
サバクももちろん館内の掃除などを手伝った。一階フロアの砂は殆ど撤去され、温泉の準備さえ出来ればいつでも稼働するところまで復活していた。
サバクは自分が起こした過ちを実感していた。これだけ大勢の人間が大事にしていたこの場所を壊し、笑顔を奪ったのだ。
しかし、それと同時に人間とアーサーが手を取り合い、この場を新たな方法で復活させたことへの尊敬も感じていた。まさにこれが自分たちの使命に繋がるのだと思うようになっていた。
いつからだろうか、アースの復活という目的がアースを滅ぼした者たちへの制裁に変わってしまっていたのは。きっと、腹立たしかったのだろう。アースを滅ぼしても、この惑星で楽しく生きていた人間が。しかしそれもサバク自身の単なる八つ当たりでしかなかった。それに気づいたのは自分が過ちを犯した後だった。
サバクはゆっくりと立ち上がって、それでもオアシスと自分が作り出した砂漠に似た景色から目を離せずにその場に立ち尽くしていた。あの日、初めて出会った彼女の言葉がずっと胸に刺さっていた。
『……あなたのした事が正義だと、胸を張って言えるんですか? 人間がアースにした事と一体何が違うんですか? 』
「違う……本当に……? サバクの……サバクのしたことは……」
「……よっ。ちょっとは元気出たか? サバク」
いつの間にか近くへと一人の人間がやってきていた。確かさっき戦った……アラムと言う人間だ。後ろには見慣れぬ男とあのときの女性がいた。
「エンノスケさん、ミスズ。ちょっと待っててもらっていいですかね? 」
アラムは二人を待たせると、サバクの方へ駆け寄ってくる。男の方は何も知らないのか、笑顔でこちらに手を挙げている。女性の方は、当然ともいえるがしかめっ面でこちらから目を逸らした。サバクは笑顔で近づいてくるアラムの横を素通りすると、二人の前まで近づいていく。
「ちょ……なんなんですかぁ! 」
サバクはミスズの目の前にしゃがみ込むと、頭を地面にすりつけるような体制を取る。アラムにはその姿勢や行為に見覚えがあった。アース研究の授業で学んだ、謝罪の際に用いる動作の一つ【ドゲザ】だ。サバクは頭を上げずに、目の前で慌て驚いている二人に向かって話しかけた。
「……ごめんなさい。謝って……許されることじゃ、ないけど。……ごめんなさい」
「な、なんじゃこいつは……? おい、頭砂まみれになっちまうぞ、いいから身体起こせ! 」
サバクの突然の行動に対して驚いたエンノスケは、それでも彼の身体を引っぱり上げて立たせる。アラムとミスズも近くへと駆け寄ってくる。ミスズがサバクを指差して冷たく言い放った。
「パパ……こいつなの。詳しくは言えないけど……この場所を砂で覆い尽くした犯人」
「ほう……なるほどな、それで謝罪か。……地区代表としてはね、詳しい話聞きたいところだけども」
サバクは真剣な顔で二人の方へと向き直る。彼の口から発せられたのは思いもよらない言葉だった。
「サバクは……きみの言葉で、分かった。俺がしたことは……アースを滅ぼした人間と同じ、誰かの笑顔を奪う……そういうやり方だった。だから……ゴメンなさい」
「……それで? 許して欲しいってことですかぁ? 」
「……サバクは自分のルールで裁くつもりだった。この惑星の人間たちを。だから……サバクをこの惑星のルールで裁いて。罪を……償なわせて」




