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追憶のEarth-er  作者: だーぎー
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06 逆風、消えぬ闘志

「……おい、馬鹿な真似はやめろ! まさかフゥを消し飛ばす気か」


 アラムは必死の形相でゲインに向かって叫ぶ。シェンザーとヨシノもその予想外の行動に動揺しているらしかった。

3人の慌てる様子を見て、ゲインは我慢できないとでも言うように顔を押さえて高笑いした。


「フハハハハハッ! 何を言っているんですかね、私が一時の感情でみすみす儲け話を棒に振ると思いますか? 」

「なら、どうするつもりだ」


「こうするのさ! ケービロイド達よ、フゥを強制起動させろ! 」


 ケービロイド達が動き始め、フゥの拘束が一時的に解かれる。しかし、直後ケービロイド達から伸びた無数のコードがフゥの全身へと繋がれていく。


「うぁぁぁぁあああああ!! 」


フゥが突如目覚め、悲痛な叫び声をあげる。フゥの身体から強い風が吹き始める。


 「やべえ、何かにしがみつけ! 」 


アラムとヨシノは屋上を囲む柵に慌ててしがみつく。シェンザーは風の勢いに吹き飛ばされるが、運良く階段口の壁へと押しつけられる。


「シェンザー! 大丈夫か!? 」

「なんとか……大丈夫」


「ふぉぉぉおおおおう!! ……ぐふぇっ」


ハルゲンが強風に吹き飛ばされ、シェンザーの真横に飛んでくる。ゲインは笑いながらハルゲンに向かって叫ぶ。


「ハハッ、あなたの存在を忘れていましたよ、ハルゲン。生身でここにいるのは大変危険です、下の階へと逃げておきなさい」

「……はっ、はいぃ!! 」


強風に顔を歪ませながらハルゲンはゆっくり階段の方へと向い、体制を崩しながらも下の階へと消えていった。アラムは風の勢いに目を細めながら、ゲインの方を向く。


「……なんであいつ……この強風の中立っていられるんだ!? 」


 ゲインはフゥの方を向いたまま顔色一つ変えずこの強風の中で立っていた。いや、よく見ればスーツや髪の毛さえもこの強風に煽られている様子がなかった。


「これがベンディングシステムです。自身に害をなす現象全てを弾き、捻じ曲げる」


 「なるほどな。確かに気になってたんだ、フゥから放たれる強風をこんな至近距離で確認してどうして無事でいられたのか」


「そうさ、私はこのベンディングシステムによって風の進行方向を捻じ曲げられる。最早、君たちにこの子を救う術はない。さっさと飛んでいきたまえ。君らの仲間の手によって、ね」

「はっ、そうは……行くかよ」


アラムは強風に逆らいながら柵を掴み一歩、また一歩とゲインの方へと進んでいく。この絶望的な状況の中、何かを狙って歩いていく。


「キャァァァア!! 」

「ヨシノ……ヨシノっ!!」


強風に耐えきれなくなったヨシノが吹き飛ばされる。アラムの目の前で柵を乗り越え、落下していく。シェンザーも、目の前で起きたあまりの出来事に為す術もなくその場に崩れ落ちた。


「そんな……」

「フハハハハハッ! そう悲しむことはないですよ、所詮古ぼけた機械なのですから。金になるなら話は別ですがね」


 シェンザーは怒りに任せてゲインの元へ走り出そうとするが、フゥの突風に押し戻されて背中から壁へと激突する。あまりの衝撃に意識が飛びそうになるが、何とか持ち堪える。

 身体を走る痛みに耐えながら、首だけを動かしてアラムの安否を確認する。アラムはいまだしぶとく柵にしがみつきながらも、先程よりゲインへと接近していた。


「……君はなかなかしぶといですね。ケービロイド達よ、全方向に吹く風を彼へと集中させなさい。もう一歩も近づかせないようにね」


 途端、風の勢いが何倍にも膨れ上がる。ベンディングシステムでも捻じ曲げきれないのか、ゲインの髪やスーツも少しなびきはじめる。アラムも前に進むどころではなくなり、その場へとしゃがみこんでしまう。

「さぁ、もう全て諦めなさい。今なら罰金と……弁償で許して差し上げましょう」


 ベンディングシステムをフゥの方へと構えたままアラムの方へゆっくりと向き直る。


「貴方も吹き飛びたくないでしょう? あの娘のように」


 アラムはゆっくりと顔をあげる。その顔を見てゲインは思わず一歩退いた。背筋の凍るような、不敵な微笑み。アラムは笑っていたのだ。その眼からはまだ戦意は失われていない。

 アラムはゆっくりと手のひらを広げる。手のひらの中から数枚の桜の花びらが風に飛ばされていくのを、ゲインとシェンザーは見逃さなかった。


「それは……さっきの娘が身体から出していた……」


そう、たしかにあの花弁はヨシノが【イデヨトモダチ】を発動した時に、身体から放出したものである。しかし、それを握っていたところで何が出来るのか。それはゲインには分かるはずもなかった。

 突然、アラムが立ち上がって地面についていた服の汚れを払う。それを見て、ゲインは異変に気づく。風が吹いていない。


「いやー、中々ヤバかったぜ。本当に死ぬかと思った」

「なに、一体何が起こっている? 」


 振り返るとケービロイド達は倒れ込んでおり、フゥに繋がれていた無数のコードは一本残らず引きちぎられていた。そして気絶しているフゥを必死に持ち上げていたのは先程吹き飛ばされたはずのヨシノだった。 

「なぜ……なぜ君がそこに? 」



 


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