59 エンノスケの視察 (1)
アラムはミスズと二人で入口ゲートに立っていた。もう全ての準備は万全だ、あとは地区代表から承認を得る事ができれば、サンディナフェアは開催される。認められなければ苦労は水の泡だ。
遠くからエンノスケが手の空いていた職員達数人を連れて歩いてくるのが見える。アラムは丁寧に頭を下げ、挨拶する。
「お待ちしておりました。どうぞ、中へご案内します」
「お前はあの日、矢面に立ってプレゼンをしていた奴だな。さて、見せてもらおうか。アースとサンディナの文化が融合した娯楽とやらを……って、ちょっと待て。ミスズ、何だその格好は? 」
ミスズの見慣れぬ服装にエンノスケは素っ頓狂な声で驚く。ミスズはにこにこしながら服装を見せつけるようにしてくるりと一回転する。
「どう? これ、サンディナの民族衣装なの。日差しを遮るフードやマントもお洒落だし、鮮やかな染色のこのロングドレスも最高でしょ! ここじゃサンディナと違って、日焼けは気にしないでいいから長袖じゃなくてもいいんだけどぉ。気分はまるでサンディナよ! 」
「なるほど、民族衣装か。面白い取り組みの一つだな」
これはユーシアとサンディナから手伝いにこの惑星へ来てもらった人々の手作りである。ゼル由来の生地ではない、サンディナの生物の皮でできた衣装はとても珍しい。
はしゃぐミスズを一通り褒めて、アラムはエンノスケ達を敷地の中へと誘導する。一同はぞろぞろとあるきながら人生で初めての砂の大地へとおっかなびっくり足を踏み入れる。
「中はかなり暑いんだな。気温や湿度までサンディナの情報を再現しているのか。
真ん中に大きな水風呂【オアシス】があって、その周りを囲むように土産屋なんかの屋台が並んでいるわけか」
オアシスもアーサー・スイの能力によって溢れんばかりの水量に増えていた。さらにキオンが一手間加え、オアシスの水は格段に心地よい冷たさへと改善されている。
この子たちがいればこんな遠回りなことしなくても、すぐにでも営業再開できたのでは!? とミスズに問い詰められたりもしたのだが……アラムは思い出さなかったことにして、エンノスケに説明を続けた。
「はい。先ほどの民族衣装が買える場所やサンディナの郷土料理や砂漠の砂を用いた砂時計なんて商品も販売しています」
「ほぉ……これはいいな」
エンノスケは売店に並べてあった砂時計を一つ手に取ると、まじまじとその造りをみつめる。ガラスの中に入れられた砂が上の空間から下の空間へと、調整された時間ぴったりで落ちきるらしい。気に入ったデザインのものを吟味して一つ購入する。
アラムはエンノスケがちゃんとお金を払って購入したことに驚いていた。自分の持っている店の品を金を払って購入したということは、少なくともこのサービスには娯楽として金を払う価値があると、一つ認めてもらえたという事だ。順調な滑り出しである。
続いてアラムは砂が円形に積もった場所へとやってくる。円は外側に行くに連れて高い壁のようになっている。
砂で作られた大穴の中ではアースの砂漠や砂丘で楽しまれていたスポーツ、サンドボードの資料を基にして考えられたアクティビティが楽しめる。
シェンザーが【桜芽刀】のために開発したブースト機能を小型化して搭載したボード、【ブーストボード】で砂の坂を乗り越え、大穴の中を自由に走り回ることができる。
「ヒャッホー! これ楽しいよ、アラム! 」
既に中で走り回っているキオンの声が穴の外まで響いてくる。エンノスケもアラムもはやく中に入りたくてウズウズしている。
シェンザーの指示で【ミザルの湯】の職員が二人分の【ブーストボード】を抱えて持ってくる。シェンザーの説明通りに職員が付け方を学ぶ。この施設は通常営業が再開した後も残す予定だからだ。職員に【ブーストボード】と足を固定してもらい、巻き上がる砂から目を守るためのゴーグルをつけて大穴へと向かう。
シェンザーの合図で二人は走り出す。砂の坂をブーストの勢いで駆け上り、大穴へと勢いをつけて砂を巻き上げながら滑り降りる。この爽快感は確かにクセになる。隣を走るエンノスケも大声ではしゃいでいるのがわかる。
大穴を何周もグルグルと風を切って回り、外へと飛び出す。ゆっくりと坂を降りてきて、ゴーグルを外した二人の顔はとても笑顔だった。
「これは楽しいじゃないか! 【パラダイスモンキー】に身体を動かす娯楽は無かったからよ、こいつぁいいサービスになるぜ」




